生きたバスケットボールの経験
数日後、久美さんが本社3階の会議室に幹部10数名を集めた。そして、
「“私は経営はまったくわからない素人です。だから、ちょっと年をとった新入社員が入ってきたと思って一から教えてください。どうか力を貸してください”と─」
前出・横井さんがこう言う。
「ありがたかったです。知らない人が来て社長になるよりうれしかったし、安心しました。会長の遺志を受け継いだ社員が大勢いましたから“ちゃんと継続していける”そう思いました」
代表となることを選んだ久美さんの頭に浮かんだのは、全国制覇を成し遂げたときの経験と、クラブチームの監督として異例のスピード優勝を遂げたときに悟ったこと。すなわち、全員がまとまってそれぞれの役割を果たす大切さだった。
「私の仕事はみんながバラバラにならないようにまとめ、やる気にさせることだと思うんです」
そんな経営スタイルの現れのひとつが社員のスペシャリスト化。兼任が多かった職務を、営業なら営業、企画なら企画と、それぞれの役割に専念させる体制に改革したのだ。
「会長のときは思いつきでドンドンやっていたと思いますけれど、これからは社員がそれをやらなくちゃ。それぞれが考えて行動して、責任をとる行動をしなさいと、常々言っています」
前出・横井さんも、
「以前はよくも悪くもトップダウン。会長に喜んでもらうことをするのが目的でした。今は“会社のためになることをする”が目的です」
従業員全員をまとめるパイプ役として、東京への出張も意識して増やしている
「私が継いだとき、東京に不採算店がいくつもあって。東京には“名古屋とは別”という意識があったようです。それで行き来を多くして、私も毎月、東京に行ってみんなの顔を見て。そのうち業績はよくなりました。みんなの意識が“名古屋と関東”でなくて、“エスワイフード全体”に変わった。ただ、それだけなんですけどね」
人と人とを結びつけ、“自分も組織の一員である”という自覚を持つ。すると組織はそこまで変われるものなのだ。