レトルト食品、アイスが森を壊す
インスタント麺や菓子パン、カレーやシチューなどのレトルト食品、スナック菓子、アイスクリームなど、スーパーに並ぶ商品の約半分に含まれているという『パーム油』。
コンビニやスーパーで売られるお惣菜の揚げ油としても使われている。トロッとした食感もサクサクした食感も出せ、生産効率が高い万能油だ。
この世界で最も安価で重宝される油が、地球温暖化を加速させている。
「パーム油は化粧品や洗剤など日用品にも含まれますが、日本では8割が食品に使われています。実際の原料表示欄では、ショートニング、マーガリン、植物油脂、乳化剤、香料などの名称になっているため、一般的にパーム油という名前にはなじみのない方が多いのではないでしょうか」
『WWFジャパン』森林グループの伊藤小百合さんは、消費者にもその生産過程に目を向けてほしいと訴える。
現在、世界で消費されるパーム油の85%がマレーシアとインドネシアの2か国で生産されている。原料はアブラヤシ。熱帯雨林や隣接する泥炭(でいたん)湿地を農園へと開拓する際、メタンガスを含む大量の温室効果ガスが発生するという。
「泥炭湿地から水を抜き、乾いたら火を放つ。これが安くて早い整地方法ですが、泥炭地には多くの炭素が蓄えられていて、こうした火災で日本が1年間に出す温室効果ガスの排出量を上回る年もあります」(伊藤さん、以下同)
無計画な農園拡大はオランウータン、アジアゾウ、トラなどの野生動物の命も奪ってきた。すみかを奪われた動物は農園に踏み入るため、害獣として殺されてしまうのだ。
人と動物の距離が近づくことは、未知のウイルス蔓延(まんえん)を招くことにもつながる。
「人の生活圏にないウイルスが野生動物から人にうつり、感染爆発を起こすといった森林破壊のリスクは、ずっと昔から議論されてきました。もう遠い国の出来事とは言えなくなっています」
農園での強制労働や児童労働も深刻になる中、'04年にWWFと欧州企業などが「持続可能なパーム油のための円卓会議(『RSPO』)を設立。
環境や人権を守る国際基準を設けた認証制度も始まった。
今年2月、日清食品のカップヌードルが全工場でRSPO認証パーム油の使用を開始。エスビー食品はカレーなどに使うパーム油を2023年までに100%認証油に切り替えると宣言している。食品業界では持続可能なパーム油調達に意欲をみせる企業が増えているが、認証マークつき商品の展開は限定的だ。
「“消費者の認知がないのでは”とマークをつけない企業も多い。パーム油自体が悪いわけではないので、消費者が関心を示すことで、認証マークつきの商品が増えれば、生産現場の改善を、買い物で後押しできると思います」