“すべて息子がやった”
と話す母親に思わず……
母親は生活費が足りなくなるたび少年を身内のもとへ行かせ金を無心させていたが、そのうち身内からは絶縁され、野宿を強いられるように。生活保護を受給し少年がフリースクールに通う時期もあったが、長くは続かず、少年が働きに出るようになっても、その給料はまたしても母親の遊び金として使われ生活は追い詰められていく。
「少年はSOSを出す手段を知らなかった。逃げること、言い返すこと、助けを求めること……それらをすべて知らなかったんです」
逮捕直後の2人の印象については、こう振り返る。
「もう2人とも口から出る言葉が嘘ばっかり。逮捕する時点である程度、証拠や事件の経緯を掴んでいたんですが、当初、2人とも祖父母が死んでいることすら知らないふりをしていて。滑稽なくらい、嘘で塗り固められていましたね。これまで人に嘘が暴かれたことがない、そんな印象を受けました」
結果、少年は強盗殺人容疑で懲役15年の実刑が確定。一方で、母親は息子に犯行を指示したことを否定、強盗と窃盗罪で懲役4年6月が言い渡された。
「通常、取り調べでは、刑事が怒ったり感情的になることはしません。だけどこのときばかりは、“すべて息子がやった”と話す母親に対して、“俺が母親だったら嘘でもかばうぞ”と怒ってしまいました。僕個人の気持ちとしては、この犯罪については母親の指示がなかったらこんなことになってなかったと思うばかりで、少年と同じ罪で起訴できなかったことを今でも本当に悔しく思います」
だが佐々木さんは、自分は悪くないと主張を続ける母親の姿を目の当たりにしながらも、「少年への愛情はあったと思う」と言葉を続ける。
「そもそも、自分の育児を間違いだと思っていないんです。先日、3歳の女の子を都内の自宅に1人残し、鹿児島に行っている間に衰弱死させたとして母親が逮捕された事件がありましたが、そういう“育児リテラシー”の低い母親は必ずといっていいほど“死ぬとは思わなかった”と言う。普通の人から見たら、保護責任者遺棄だと思われるようなことでも、彼女らにとってはまったく悪いこととは思っていない。むしろ自分はきちんと育児していると思い込んでいる人さえいる。
一方で、少年は母親以外の大人と関わることがなかったため、ほかの母親というものがどういうものなのか対比できなかった。事件を起こす前に僕たち大人が気づいてあげて、なんとしてでも母親と離すべきだった。そういった“気づき”があれば、必ず防げた事件だと思います」
佐々木さんは今でも少年を気にかけている。
「少年の取り調べは、僕も尊敬する取調官が担当して、そこでうまく信頼関係が構築できたようです。これまで少年には、出会った大人の中に味方がいなかった。そんな中で、共依存となっていた母親と初めて離れて、信頼できる大人と出会えたことは、彼に大きな変化をもたらしたと思います」