「様子は見ている」とウソを重ねた
どうにか部屋に入ると中には複数の猫の遺体と糞尿の山。床は腐り、ウジ虫がわき、部屋の中央に空になったエサと水の皿が置かれていた。
数日前に亡くなったようなしっかりと形がある遺体、新聞紙に包まれゴミ袋に入れられた遺体、白骨化して形すらとどめていない遺体もあった。これは猫たちが時間差で死んだことを表していた。
「空の器を見て“水をくまないと”と思いました。1匹も生きていないのに。それほど混乱していました」(同)
窓はすべて閉じられ、換気扇は網や格子で覆われていたためどこからも外には出られない、密室だった。
通報すると、最初は「猫でしょ、まぁ行きますけど」としぶしぶの様子だった警察官も現場の状態に顔色が変わった。その後、群馬県警沼田署により現場検証が行われた。
猫の遺体は翌日、岩崎さんや合流した冒頭の飯田さんらの手によって1体ずつ確認された。形が残っていたもので21体。骨の欠片しか残っていないものも合わせると50匹以上の猫がいたとみられる。
「関係者は半狂乱でした。Tは失踪するまで関係者と毎日連絡を取り合い、みなかみ町にも顔を出していたそうです。ただ、姿が見えなくなることも増え、電話で猫のことを尋ねると“夜、行っている。世話をしているから大丈夫”とか“若い人を行かせているから”と説明していたそうです。関係者は“毎日来ている”と安心してしまったとか……」(前出・飯田さん)
事情を知る人物は匿名を条件に取材に応じた。
「Tさんから猫のことで何か聞かれたら“若い人が見に来ていたと言え”と言われていた人もいたそうです。でも、そんな人は来ていなかった。全部ウソだったんです」
後から明かされた空き家を含めた3か所の建物で死んでいたのはすべてTが世話をしていた猫だった。