「何度引っ越ししても『出る』んです……」
これまで数々の恐怖体験をしてきた。学校、職場、旅行先、心霊スポット……とあるのだが、実は体験の多くは自宅で起きている。
最恐スポットは家。それは何度引っ越しても続く。
スタートは子どものころに住んでいた古い日本家屋。ラップ音や誰もいない廊下を歩く足音は日常。深夜、誰もいないリビングで勝手にカセットデッキから音楽が流れる、なんてこともあった。祖父が建てた家なので、事故物件やいわくつき物件ということはないと思うが……。
学生時代に住んでいたマンションでも、もちろん起きた。
ひと晩中、子どもが走るような足音が室内に響いていたことも。最初は下の家の住人か、と思ったが何かおかしい。足音はトントントントン……と同じリズムを刻み、間を置いて再び同じリズム、の繰り返しで明け方まで続いたため、一睡もできなかった。足音はその後もときどき聞こえた。
別のアパートでは友人から指摘されたこともある。
「いつもベランダに干している着物、誰の?」と。もちろん着物は干していない。そこも天井や押し入れの奥からの物音が絶えなかった。
次は何も起こらないように、と期待して引っ越すも先々でやはり奇妙なことが起きる。
極めつきは社会人になってすぐに住んだアパート。あの恐怖の日々は今も忘れられない。
金縛り、夜中にドアの隙間から寝ている私を見つめる黒い影。耳元で女性からボソボソと話しかけられたこと。深夜に窓をノックする音。見える友人は青ざめて帰り、別の友人は具合が悪くなった。
おまけに住民は傷害事件を起こし、何度もパトカーが来た。
その後、近くに放置された古いお墓があったことがわかり、アパートの立っている場所は戦時中に多くの人が亡くなった場所だったことも知った。
これは偶然か一般的なのか。
現在は幸い金縛りも起きず、黒い影が現れることはない。比較的、安心して暮らしている。
ときどき天井から聞こえる足音を除けば。私の家は最上階だ。
安心して住める家ってあるんですかね?