世の中には「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」だけでなく、「ヤバい男=ヤバ男(ヤバダン)」も存在する。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、芸能人や有名人の言動を鋭くぶった斬るライターの仁科友里さんが、さまざまなタイプの「ヤバ男」を分析していきます。

第11回 伊勢谷友介

 俳優・伊勢谷友介大麻取締法違反で逮捕され、波紋を広げています。

 みなさんご存じのとおり、伊勢谷といえば天才の集う東京藝術大学出身で、モデル経験あり。デザイナーの山本寛斎さんの異母弟にあたるなど話題性は十分。英語も堪能であのルックスというキラッキラな人物。女性にもよくモテて、広末涼子、吉川ひなの、木村佳乃、長澤まさみ、森星など名だたる美女たちと浮名を流してきました。東日本大震災の際は、被災地支援に積極的に動いていましたし、近年は社会貢献活動にも力を入れていて、企業の代表や学校設立、環境問題にも取り組むなど「世の中をよくする」ために活動していたことでも知られています。

逮捕で再注目される恋人への“DV疑惑”

 それだけに警察のお世話になるようなヤバい行動をするとは信じられないのですが、伊勢谷が逮捕されたことで、再度注目を集めているのが、伊勢谷のDV疑惑なのです。2013年4月11日号の『週刊文春』で、伊勢谷が恋人であった現役芸能人のAさんの足を蹴ったり、部屋の中でAさんを的に見立てて、エアガンを撃ったという報道がなされました。モデルのBさんもDV被害にあっていて、慰謝料をもらう形で解決したそうです。

 “社会貢献”に熱心で人道主義もしくは博愛主義ともいえる伊勢谷が、なぜよりにもよって愛する女性に暴力を働くのか。コンプライアンスが厳しい時代に、薬物犯罪を起こしたら、これまでに築き上げた芸能人としてのポジションを失うのは明らかなのに、なぜ薬物をやめなかったのか。

 矛盾がある伊勢谷の行動を、「恐るべき二面性」とか「調子に乗っていた」と見る人もいるでしょう。けれど、人間はそもそも矛盾した生き物ですし、二面性が全くない人はいないと思うのです。それよりも、薬物と暴力の理由を「ある人」と絡めて考えてみると、因果関係がわかりやすいストーリーが浮かび上がってくるのではないでしょうか。

「ある人」とは伊勢谷のお父さんです。

 伊勢谷の異母兄である山本寛斎さんが2014年に『ファミリーヒストリー』(NHK)に出演し、家族の歴史を辿っていました。番組によれば、寛斎さんのお父さんは伊勢谷に面差しの似た大変な美男子で、生涯で7回結婚しています。お父さんは天才テイラーだったそうですが、酒癖、女癖が悪く、寛斎さんのお母さんに暴力をふるっていたそうです。

 寛斎さんが7歳のころ、お父さんはお母さんに一方的に離婚を言い渡し、寛斎さんら兄弟はお母さんに引き取られます。しかし、ある日突然、お父さんが寛斎さんらを引き取りにきます。暴力をふるわれることが怖くて、お母さんはお父さんに子どもたちを渡してしまいますが、お父さんはまさかの育児放棄。寛斎さんと兄弟は施設に預けられることになったそうです。このような経験をして苦労して育った寛斎さんは、自分が家庭を持ったら、妻子を大事にすると心に誓ったそうです。

 寛斎さんは2020年7月21日にお亡くなりになりましたが、娘である女優・山本未来はインスタグラムで「私にとって、父はエネルギッシュで明るいことはもとより、穏やかで、寛大で、人懐っこく、コミュニケーションを大切にし、無償の愛を与えてくれた存在でした」とお父さんへの愛がにじんだコメントを発表しています。寛斎さんはお父さん譲りの才能に磨きをかけて世界的デザイナーになり、けれど、お父さんの生き方だけは真似をしなかったということでしょう。