新聞やテレビなどでは、自殺報道にあわせて『いのちの電話』の連絡先を案内することが多い。テレビ番組のディレクターとして自殺問題を取材してきた放送作家の大嶋智博さんによると、
「2000年にWHOが公表した自殺予防のためのガイドラインの中に、報道の際は“どこに支援を求めることができるのかについて、情報を提供する”という項目があります。それに基づいて、日本では『いのちの電話』の電話番号を案内することが多いです」
ただ、一部では不満の声も。電話をかけてもなかなかつながらないというのだ。受付時間が午後10時までというのも実情に合っていない。実際に電話をしたことがあるという40代女性に話を聞いた。
「結婚を考えていた男性に裏切られて“もう生きていてもしかたないかな……”みたいな気分になったときに、電話をかけてみたんですが、全然つながらなくて。いま思えば本当に死にたいと思っていたというより、そう考えてしまっていることを誰かに聞いてほしかったんだと思います。私は大丈夫でしたが、つながらないことで気分が一層落ち込む人もいるでしょうね」
『いのちの電話』が抱える問題点
最後の頼みの綱をつかむことができない。不安を抱える人が増えている状況に『いのちの電話』が対応できていないのだ。
「『いのちの電話』は人員も予算も足りていません。厚生労働省の自殺対策予算は増加していますが、民間主体の『いのちの電話』への補助までは手が回っていないのです。ボランティアや寄付で成り立っていますので、東京や大阪などの都市圏はともかく、地方だと携わっている人間が1~2人ということも。
『いのちの電話』という全国的な団体があるわけではなく、地域ごとの運営母体は自治体だったり、宗教団体だったりとさまざま。全国放送の番組では十分に説明する時間がないので一応の代表である『いのちの電話連盟』のナビダイヤルを伝えているんですが、そこに電話が殺到してしまい、つながらない状態になっているんだと思います」(大嶋さん)
実は『いのちの電話』以外にもこころの相談窓口はある。
「厚労省は『こころの健康相談統一ダイヤル』を運用していて、各自治体が運営する公的な相談機関の案内をする電話サービスを実施しています。電話だけでなく、SNSを通じてメッセージで相談を受ける活動もありますが、まだ広く知られているとはいえませんね」(大嶋さん)