「人生100年時代、私はやる!」
節制はするものの、好きなものを楽しむときは楽しむのもまた、奥村流。
「お酒、飲みますよ~(笑)。ワインだと1人で1本飲んじゃうの。1人で飲みながら、“あの人、どうしているかなあ。楽しかったなあ”って。走馬燈のようにストーリーが浮かんでくるの(笑)」
トレーニング方法も前述どおり、“やるときはやる”週に2日の集中型。前出・李コーチによれば、奥村さんの最近のトレーニングは、こんな具合だ。
「試合の直前なので、試合の練習に切り替わっています。
試合が近づくとテクニック的なことも忘れずにやってほしいので、今は主にベンチプレス中心です。それだとすぐにほかの部位が衰えますので、補助的にマシントレーニングをしている感じです」
ケガをしないことを第一に、練習は試合前もそうでないときも週2回と李コーチ。世界記録は魅力だが、年齢を考えれば、無理な練習で身体をこわしてはなにもならないからだ。工藤薬剤師がこんなふうに言う。
「私は奥村さんは世界記録を伸ばしていける人だと思っています。45kgの世界記録を持っていて、1~2年前までは60kgが挙がっていたんですから。でも、周りの方々からは(奥村さんは)ウエイトリフターとして生きた世界記録ですから、“あんたは1日でも長くやることが大事だ”と言われる。そうすると無理しないわけです。でも世界記録を出すには、無理をしないわけにはいかない。
だから奥村さんが“よし、やってやる!”と思えば世界記録が挙がると思いますし、モチベーションのシフトを“1日でも長くやり続ける”にすれば、そちらになると思います。(世界記録実現は)その兼ね合いですね」
当の奥村さんはといえば、「昨日も私の応援団長が“今度はどれくらいを狙うの?”って聞くから、私が“(コロナで練習していないから)40kgがやっとですね”と言うと、“そんなことでどうする! 42・5kgを狙え”って。だから私、“はいっ!”って(笑)」と力みがない。
本来、こうした取材を受けるのは本意ではなく、当初は嫌がっていたと工藤薬剤師。だが今は、自分がメディアに出ることで高齢者の励みになりたいと願っている。
「私より10も20も年下の人が、杖をついて病院通いをして……。私、思うのよ、年をとるのは避けられないけど、“気持ちまで年をとる必要はない!”って」
アスリート・奥村正子90歳。気持ちはおそらく、われわれの誰より若い。
その気持ちで、今年の世界選手権も、世界の頂点・金メダルを狙う──!
取材・文/千羽ひとみ
せんば・ひとみ ライター。神奈川県出身。企業広告のコピーライティング出身で、ドキュメントから料理関係、実用まで幅広い分野を手がける。著書に『ダイバーシティとマーケティング』『幸せ企業のひみつ』(ともに共著)