母の逮捕に泣き崩れる
「お母さんっ子でした」
友人たちが口をそろえる奈美子さんの象徴的な人柄だ。20代前半のころ、母が切り盛りする居酒屋の「看板娘」としてカウンターに立つ姿が、今も思い出されるという。
奈美子さんは妹と2人姉妹。両親は中学生のころに離婚し、母の手ひとつで育てられた。名古屋市内の商業高校を卒業後、製造関係の会社に就職。数年働いた後、歯科医の助手を経て、不動産会社へ転職し、悟さんと出会う。
2人は社内恋愛だった。平成7年7月7日に入籍し、現場となった西区のアパートへ移り住む。奈美子さんは寿退職した。悟さんが懐かしそうに回想する。
「奈美子はとにかく主婦業が好きでした。料理作って子ども育てて、旦那さんの帰りを待つ。同じ料理が2日続いたことはなく、私の両親にもよく気を遣ってくれました。パーフェクトな妻でした」
ところが新婚生活が始まっておよそ1年後、悟さんは社用車でたまたま耳にしたラジオで、奈美子さんの母が薬事法違反容疑で逮捕されたことを知る。母はそのとき、市内でひとり暮らしだった。
報道によると、母は健康食品会社の販売員として、「がんに効く」などと薬効をうたい、無許可の清涼飲料水20数本(約94万円分)を販売した疑いが持たれた。
悟さんがその日に帰宅しても、奈美子さんの口からは何も告げられなかった。このため悟さんから切り出すと、その場で泣き崩れたという。
「夕刊には顔写真も出ていました。ただ、不起訴処分になったのか、数日で留置場を出てきたので、奈美子と一緒に迎えに行きました。その後、名古屋にいづらくなり、義母は奈美子の従兄がいる北海道へ移り住みました」
以来、奈美子さんも毎年、夏になると北海道に短期滞在し、息子の航平君もそこで生まれた。そうして3年の歳月が流れ、奈美子さんの母が北海道から名古屋に戻ってくることになった。翌年春には母と同居する予定で、35年ローンの新築マンションを購入した。事件発生10日前には、奈美子さんと母がそのモデルルームを下見に行っていたと、悟さんは振り返った。
「奈美子が母に『これと同じ部屋を買うんだよ』『カーテンをどうしようか?』とうれしそうに話していました。そういう姿を見て、奈美子も少しは親孝行できたのかなと」
新車、新築マンション、初のディズニーランド……。夢のような新婚生活を周囲に話す一方で、母の逮捕については親友にも一切漏らさなかった。そんな心の闇が反動となり、幸せぶりを過度に吹聴してしまったのだろうか。友人のひとりが語る。
「奈美子はいつもキラキラしています。背筋がまっすぐで胸を張って歩いている。凛としていて、不平不満がほとんどない。ひょっとしたら苦しいときも、そんなイメージを作ってきたのかな。彼女は他人に見せたい自分があったのかな」
一方、会社員時代の後輩は、「奈美子さんは恨まれるような人ではありません。ママ友やご近所とも仲よかったし、誰かとトラブった話は聞いたことがない」と断言したが、こんな複雑な思いも口に。
「ただ、お母さんとマンションで暮らせるのを幸せいっぱいに話していたので、人によってはそれが『自慢』に聞こえ、反感を買われてしまったのかな……」