映画館よりも甘い
新幹線のコロナ対策
新幹線の混雑は、感染リスクの観点で、どこまで気にするべきなのだろうか。
他の乗客との距離は、在来線の方が圧倒的に近い。しかし、東京~新大阪は2時間30分ほどで、乗車時間は圧倒的に新幹線が長い。「濃厚接触者」の定義は、距離の近さと時間の長さに依存しており、乗車時間の長さは重要なポイントだ。飛行機に比べても新幹線は乗車時間が長く、気になるところだ。
東京~新大阪の乗車時間は、映画上映時間よりも長い。
映画館では、「映画館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」で、
「十分な座席の間隔の確保に努める」
として、前後左右に人が座らないようにシートマップに制限をかけている。その後、座席制限を撤廃できるように一部改訂されたが、その場合には、
「収容率100%にする場合は、飛沫感染を防止するためにマスクを外す懸念のある食事をさせないように努める」
と、フード類の販売をやめる対策などがとられる。
上映中に会話することがない映画館でも、これだけ厳しいガイドラインで運営されている。一方の新幹線は、ここまでの対策はしていない。
映画館と同様に、在来線でも、新幹線でも、ほとんどの乗客はマスクをしているが、新幹線は車内で飲食することが多く、常にマスクが着用されているわけではない。夜の時間ともなると、出張を終えたサラリーマングループが、酒を飲みながら、出張の反省会やビジネス談議に花を咲かせる。マスクを外したまま話し続けるわけだ。
新幹線の車内では、マスク着用と、会話を控えるように呼びかけられるが、車内販売で酒類を売っており、マスクを外して会話する状況を助長している面がある。
座席の背はあるものの、十分な高さではなく、飛沫感染が懸念される。気になるようであれば、思い切って車掌に頼んで席を変えてもらう手もある。JR東海の車掌には、このような要望には丁寧に対応してもらいたい。
この先の混雑状況はどうなるだろうか。
8月は対前年比25%ほどだったが、9月になると対前年比の40%にまで回復し、10月にはGo Toトラベルに東京発着が加わったこともあり、約45%に回復した。
JR東海の予測では、年内は40%で推移すると予測している。冬の感染拡大を勘案したのだろう。直近の数字よりは低めの予測である。しかし、年明けから3か月で+20%回復して、来年6月には対前年比の80%にまで戻るとの見通しだ。
リニア中央新幹線の開業も控えており、JR東海の経営改善は必須である。今年度は1,850億円の営業損失(赤字)になるが、来年度には黒字化を目指す。
しかし、ワクチンなどの抜本的な改善や対策がない限り、このまま乗車率が増加するのは不安である。政府、自治体には、感染状況を注視して、適切にアクセルとブレーキを踏み分けた呼びかけをしてほしいところだ。
文)佐藤充(さとう・みつる):大手鉄道会社の元社員。現在は、ビジネスマンとして鉄道を利用する立場である。鉄道ライターとして幅広く活動しており、著書に『明暗分かれる鉄道ビジネス』『鉄道業界のウラ話』『鉄道の裏面史』などがある。また、自身のサイト『鉄道業界の舞台裏』も運営している。