自治体が考える道徳を押し付けているだけ
また、ビデオゲームを使った対戦を競技とする『eスポーツ』が普及拡大する流れにも逆行する。
「条例はゲームをやること自体が悪という捉え方。eスポーツ選手になりたい、子どもをeスポーツ選手にさせたいという人たちに1日60分というのは短いでしょうし、eスポーツ選手になろうとすることは自己決定権で、その道を閉ざすのかという問題もあります。ゲーム時間を1時間にするのか2時間にするのかというのは本来、家族で決めることですが、それを代わりに自治体が決めるというのは自治体サイドの考えた道徳を押し付けているわけです」(大島弁護士)
9月には条例が憲法違反だとして、高松市の高校生と母親が県を相手取って国家賠償請求訴訟を起こしたことで話題になった。しかし条例は「努力義務」であり、破ったところでなんの制裁もないので、市民の側からみると不利益が生じず、争いにくい。
そんな中、秋田県大館市教育委員会では小中学生を対象にしたゲーム依存防止条例の策定を目指していたが、この違憲訴訟の動きを見て一時凍結したものの、「条例化は必要」との見方は変えていない。条例が全国に広がる可能性を踏まえ、今後の動きを注視する必要があるだろう。
喫煙の規制を家庭内にまで及ぼすべきか
大阪府寝屋川市では今年10月に「子どもの健やかな成長のための受動喫煙防止条例」が施行し、注目を集めた。第6条2項で「家庭等においては、子どもと同室の空間で喫煙をしないようにしなければならない」、第7条で「子どもが同乗している自動車の車内においては、喫煙をしないようにしなければならない」としている。
家庭内と自動車内の禁煙を努力義務とする条例は、東京都で2018年4月に施行された「子どもを受動喫煙から守る条例」に次いで全国で2例目となる。寝屋川市に寄せられた条例案のパブリックコメントでは「プライベートな空間に制限を設けるのは行き過ぎ」との声も寄せられていた。
「法格言である『法は家庭に入らず』という観点から批判があります。喫煙に規制をかけることを家庭にまで及ぼすべきかという問題はあるでしょう。また、喫煙者にとってはたばこを吸う・吸わないというのは自己決定権で、努力義務といってもそれに対して制約をかけているという捉え方もできるわけです」(大島弁護士)
ただ、自己決定権は無制約ではない。家庭内で逃げ場のない子どもを救うという意義もある。
「ゲームの使用時間についてはある程度、親と子の話し合いが期待できますが、喫煙については親子の関係性などによって違いますよね。子どもが親の言いなりになるしかない家庭の場合は、話し合いはほぼ不可能でしょう。法律家によっても、喫煙者の自己決定権を守るべきという立場と、逃げ場のない子どもの健康を守るべきという立場とあります」(大島弁護士)
監視社会を招く可能性もある
一方で、別の面から条例を危惧する声もある。禁煙・喫煙事情に詳しいジャーナリストの須田慎一郎さんは、
「条例が努力義務といっても、守られている・守られていない、違反したということを誰がチェックし、見つけ出すのでしょうか。正義感や善意から、“あの家では子どもがいるのにたばこを吸っていますよ”と密告する近隣住民が現れかねない。他人の家庭の中を監視する、つまり監視社会を招いてしまう可能性があるということが、この条例のいちばん大きな問題点ではないかと思います」
と話す。