栄養失調と脱水症状、人間にも不信感
「妊娠している猫が多数いました。一刻も早く保護しなければ、さらに増えてしまいます」(前出・石丸さん)
誰が見ても猫はネグレクトされ、多頭飼育が崩壊していることは明らかだった。
環境の改善と繁殖への対応、早急な対策が求められていた。どうにか飼い主を説得し、猫の所有権放棄を約束させた。9月末、石丸さんら神奈川県の3つの愛護団体やボランティアスタッフらによって捕獲作戦が行われた。
そこで関係者はさらにおぞましい光景を目撃する。
「逃げ込んだ猫を捕獲するため、引き出しをどかしたところ、その下に大量の“カツオブシムシ”がいたんです」
その数の多さに石丸さんは叫び声すら上げられないほどの恐怖を覚えた。
カツオブシムシとは動物のタンパク質を好む小さな甲虫。そこにいたであろう猫の形をなぞるようにびっしりと集まっていた。
そして室内からは生後2週間くらいの死体や、エサにまみれて干からびた状態の子猫の死体も見つかった。
飼い主は猫が生まれたことも知らずに放置していたのだろう。室内にいた猫の多くが3~5歳ほどの成猫。今年生まれたはずの子猫の姿はどこにもなかった。
「近親交配を繰り返しているため死産で生まれたり、育たなかった子も多かったのではないでしょうか。猫たちは栄養状態が悪かったので成猫が食べてしまったり、他の猫が子猫をおもちゃにしてなぶり殺してしまったことも考えられます」(前出・河野さん)
保護された後、猫たちに誰もが胸を痛めた。
「ほとんどの猫は長年のネグレクトで人間に対し不信感を持っていました。おまけに栄養失調状態でやせ細り、脱水症状がひどい子も多く、皮膚は硬くなって、点滴の針すら入れられなかった」
『多頭飼育崩壊インターベンション』理事の門倉民江さんは表情を曇らせた。