かつてここまで、ひとつの言葉が一瞬にして意味が変わってしまったことがあったらろうか? そもそもゴージャスで縁起がいい言葉の代名詞だったはずなのに……。ウィルス以外の“コロナ”の現状。そして、今後の付き合い方とは──。
新型コロナウイルスの脅威は、いまだおさまる気配を見せない。また、ここへ来て東京や北海道、大阪など大都市部での感染者数が再増加し始めており、私たちの心から不安が完全にぬぐい去れる兆しはまったく見えない状態だ。
「もう“コロナ”なんて言葉、見たくも聞きたくもない!」なんて人も多いことだろう。
しかし、その“コロナ”という言葉のせいで、ウイルス感染とはまったく別のベクトルでとんだとばっちりを受けてしまい、理不尽なつらい思いをしている人々がいることをご存じだろうか?
「世界には、もともと数えきれないほどの“コロナ”が存在したんです。それが、ウイルスひとつですべてがネガティブなイメージを持つことになってしまった。“言霊”とはよく言ったものです」
こう語るのは、著述家の岩田宇伯(たかのり)さんだ。岩田さんは、10月に著書『コロナマニア』を発売。著書の中で、その名称のせいであらぬ風評被害を受けてしまった、国内外の“コロナ”を紹介している。
「今年の2月に、たまたま地元の愛知県内で『喫茶コロナ』という店が目についたんですね。でも、その店の入り口に『店主が病気のために休業中』という貼り紙があって、ちょっと疑問を抱いたんです。本当かもしれないけど、その名前のせいでいろいろと支障があったのではないだろうかと。
その後、何気なく地元の“コロナ”という店を調べてみたら、実際3軒つぶれていたんです。政府による4月の休業要請の前のことです。これは何かあるな、と。そこから、“コロナ”という名前の団体を本格的に調べてみようと思いつきました」
“コロナ”の意味が変わってしまった
調べてみると、岩田さんが思っていた以上に“コロナ”は世界中に存在した。
「レジャー複合施設『コロナワールド』にある『コロナの湯』に行ったら、お客さんがほとんどいない状態で。そのころはまだ面白半分なところもあり、“貸し切り状態だな”なんて喜んだりしていました。
でも、調査を進め、風評被害に遭っている当事者の方々の話を聞くにつれて、『この現状はのちのためにも残したほうがいいんじゃないか』と思い始めていたところ、知り合いの編集者から企画を持ちかけられたんです」
そもそも“コロナ”とはラテン語で「王冠」のこと。太陽の燃えさかっている部分も、冠になぞらえて「太陽コロナ」といわれている。つまり本来ならば、ゴージャスさを表し、勢いもあり、とても縁起のいい意味なのだ。
この本を岩田さんに依頼した編集者の濱崎誉史朗さんは、出版の意義についてこう話す。
「“コロナ”ほど、歴史上、一瞬で意味が変わってしまった言葉は今までなかったのではないかと思っています。日々言葉を扱っている編集者としては衝撃の事態です。ひとつの言葉の死、あるいは突然変異を見届けました。
今後は以前と同じ感覚で“コロナ”の語感に立ち返る事が不可能になったため、後世への記録としてあらゆるコロナを集めて、書籍に残す意義を感じたのです。いわば歴史書でもあります」
“コロナ”という言葉に、ある程度の衝撃を感じるようになった私たちも、歴史の証人となったといえるだろう。