日本人の2人に1人が生涯のうちにかかるといわれる“がん”。死亡原因の1位でもある。しかし近年は、検診による早期発見や医療の進歩によって、死に至る病ではなくなりつつあり、寛解して元気に日常生活を送っている人も少なくない。
現在、がんの標準治療は手術、放射線療法、抗がん剤による化学療法の3つが行われている。これに加えて、昨今話題となっているのが、免疫再生医療という分野だ。
副作用がほとんどない
「患者さん自身の免疫細胞を使って免疫を再生させ、免疫の力を利用して、がんを攻撃するというもの」
そう解説するのは、理研免疫再生医学・代表取締役の徳岡治衛(はるひろ)さん。
免疫再生治療は昔からあるが、免疫の研究や細胞を培養する技術が進み、治療技術や方法も進化しているという。そんな中で、最先端の治療法として注目されているのがNKT細胞標的治療『RIKNKT(R)』だ。そもそも、免疫とは何なのか。
「病を免れるために私たちの身体に備わっている仕組みのことです。皮膚や粘膜を通して外部から入ってくる病原体の侵入を防ぐ、あるいは体内にできたがん細胞を異物として認識して攻撃するなどが免疫の働きです」(徳岡さん、以下同)
免疫は、生まれながらに備わっている『自然免疫』と、身体に侵入してきた病原体を記憶して備わる『獲得免疫』の2つに分けられる。
「自然免疫を担っているのがNK細胞、獲得免疫を担っているのがT細胞。NKT細胞はNK細胞とT細胞の両方の力を併せ持った細胞で、生命維持の根幹となるものです」
NKT細胞標的治療とは、NKT細胞を活性化して、強い力でがん細胞を攻撃し除去しようという治療法だ。理化学研究所と千葉大学によって臨床研究が行われて効果が実証され、理研免疫再生医学での自社開発を経て'16年に厚生労働省の許可を得て一般の医療機関での治療が始まった。現在、東京、大阪、名古屋、福岡など14か所の医療機関が厚生労働省から認可され(※)NKT細胞標的治療を行っている。
そのうちのひとつ、東京シーサイドクリニックの中川敬一先生にお話を伺った。
「臨床研究の効果を知り、がん治療に期待できるのではないかと2019年夏から当院で取り入れています。現在まで40名近い患者さんがこの治療を受け、複数の方が、がんの消失や進行の抑制といった効果を得られています。ただし、ほとんどの方は標準治療と組み合わせて行っているので、NKT細胞標的治療だけの効果とはいい切れません」(中川先生、以下同)
NKT細胞標的治療は自分の細胞を加工したものを使うため、抗がん剤の化学療法と違って副作用がほとんどない。また、基本的にがんの種類を選ばないのがメリットだ。
中川先生のクリニックでも、乳腺、卵巣、肺、大腸、咽頭、膵臓(すいぞう)など、さまざまながんの患者さんが治療を受けたという。
では、実際にどういうプロセスで治療が行われるのか?
「まず事前に血液検査と問診、診察を行い、この治療法が適用できるかを調べます。例えば、膠原病(こうげんびょう)や感染症などの疾患があったり、高度な肝機能障害や腎機能低下がある場合は受けられません。検査で問題なければ、最初に採血をし、血液の中の単球を採取します。これを培養する施設に送って樹状細胞に培養し、免疫機能活性物質を結合させ、加工した細胞ができあがってきます。この細胞を皮下注射によって体内に戻します」
すると体内でNKT細胞が活性化するという。
なお、注射は2週間おきに4回に分けて行われ、日帰りの通院で治療できるそうだ。
【『NKT細胞標的治療』の流れ】
1.血液検査→2.成分採血→3.血液を培養し施設に搬送→(2週間後)→4.培養施設より治療薬が届く→5.皮下注射で投与(2週間ごとに約4回)
※東京シーサイドクリニックの場合。他医療機関では点滴投与を用いることも