コロナ禍や東日本大震災の影響も──
シニア・シルバー世代に特化した撮影サービスを提供する東京・巣鴨「えがお写真館」。いま遺影を撮影する人が増えている背景について代表取締役の太田明良さんは、
「ご家族を亡くされ、納得できる遺影の写真が見つからなかった経験を経て、“せめて自分は納得いく写真を残したい"という方が多いですね」
と語る。えがお写真館を訪れるのは約4割が70代。次いで60代が約3割だが、いずれも地方の人が半数以上を占めているのが特徴だ。コロナ禍以降、首都圏では家族葬など葬儀の簡素化が進んでいるが、地方ではまだまだ立派な葬儀を行うところも多く、その際の遺影を求めるそう。
そもそも太田さんが遺影写真のサービスの意味を確信したのは、自身の祖母を撮影した経験からだった。
「孫の写真館での撮影をすごく楽しんでくれて、仕上がり写真も満足してくれました。残念ながら撮影の3か月後には他界したのですが、遺影にはその写真を使うことに。すると、通夜や葬儀に参列してくださったみなさんが、口々に“いい写真!"“まるで女優さんみたい"とほめてくださったんです。火葬場では、祖母の遺影の前に知らない人たちの人だかりができたほど。
それまで遺影というと堅苦しいイメージ。でも、大好きな祖母の遺影は、あくまでも祖母らしい、自然なものにしたかったのです」(太田さん、以下同)
そこから遺影の撮影サービスを本格的に開始。開業当初から東日本大震災の影響で「多くの写真を流されてしまった」という宮城県や福島県からの客も多かったので、“間に合わせでない、きちんとした遺影"を求める声に後押しされる形だった。
だが、遺影はなにかきっかけがないと撮らないもの。いまのシニア層には「自分が主役の撮影なんて成人式以来」と恥ずかしがる人、そして「縁起でもない」と嫌がる人も多いのだ。まずは“プロの手でキレイになって、ついでに撮影をしちゃおうか"くらいに気軽に考えてと太田さん。
「70代になると終活を始める方も出てきますが、60代はまだ早いという感覚。でもまずはプロの作る“キレイ"体験などをきっかけに、練習気分で撮っておきましょう」
また最近、遺影の撮影依頼が増えたという。
「以前は圧倒的に女性のお客様が多かったのですが、コロナ禍以降は家族やご夫婦でいらっしゃる方が増えました」
理由は、家族と過ごす時間が増えたこと。そしてコロナによる著名人の死が影響しているのでは、と推測する。
「ニュースで著名人の遺影を見て、“自分もあんな自然な写真が欲しい"と来店してくれた男性もいました」
写真館で撮るにせよ、自分で撮るにせよ、遺影は“変身写真"ではない、あくまでも“日常の延長線上"であることが大事と語る太田さん。
「本人らしさのない写真だと、ご家族に喜ばれないことがあります。ご本人はもちろん、家族も納得いく写真を残すことが大事だと思います」