初めは複雑な家庭環境の子どもに何と声をかけ、どのように接したらいいのか戸惑いがあったと大貫さん。
「だけどそれは、こちらの勝手なイメージ。言い方はよくないかもしれませんが、みんな明るい普通の子どもたちで、抱えている事情も千差万別。思い込みはすぐに払拭されました」
では、サポートを受ける側はこの機会をどのようにとらえているのだろう。中学生のときに養護施設に入り2年前に巣立ちプロジェクトを利用。現在は大学で経済を専攻している千さん(仮名・20)にも話を聞いた。
「社会保険など『これはどうするんだっけ?』というときに、巣立ちプロジェクトで学んだことや、そのときいただいたハンドブックが役に立っています」
とはいえ、先々に不安がないわけではない。学費と生活費をアルバイトで賄っている千さんだが、掛け持ちしていたアルバイト先のひとつが新型コロナウイルスの影響でなくなってしまったのだ。オンライン授業が増えたことでできた時間を利用してインターンに出たいが、いつ対面授業に切り替わるか見通しが立たない以上、長期の仕事が前提の仕事を続けられるかどうかと二の足を踏んでいる。
退所者への支援とさまざまな課題
お金の不安はもちろん、冠婚葬祭のマナーや頭痛がひどいときは何科に行けばよいのかまで、社会に出れば大小の疑問の連続だ。その多くに答えてくれる大人が近くにいない場合、退所者はすべてを自分で抱え込むことになる。
そこでB4Sでは、巣立ち後の退所者と自立ナビゲーターと呼ばれるボランティアが2年間ペアを組み、月に1度の面談を行いながら、何かに躓(つまず)いたときに手を差しのべるプログラムも用意している。先の大貫さんも自立ナビゲーターとして活動しているひとり。
「専門の研修を受けた後、高校生が『この人の話を聞きたい』と思ったら申請して、マッチングして初めて成立するシステムになっています。面談といっても堅苦しいものではなく、一緒にごはんを食べに行ったり、子どもたちが行きたい場所に出かけたり。目的はあくまで、『何か困りごとがあった際、相談できる大人がいる』ことを思い出してもらうことですから」
人に相談をもちかけるのは社会生活に必要なスキルだが、不慣れであれば難しい。そこでB4Sでは、中学生向けにもセミナーを行い、団体の認知活動にも力を入れている。
地道な働きかけを重ねたことで近年、「巣立ちプロジェクト」の参加者は右肩上がりだという。子どもたちの口コミも大きく、自立ナビゲーションを利用する退所者も増えている。
「アルバイト先にも仲のいい人はいますが、イチから事情を話さなければならないのはちょっと……という思いもあります。施設の職員さんでは身近すぎるし、同年代の友達では返ってくる答えが想像できてしまう」
最近はコロナ禍のせいなのか、精神的に不安定になった施設出身の同世代が、千さんに泣きながら連絡をしてくることもあるという。
「コロナでなくても、不安を抱えている子は多いと思います。そんなとき、第三者的意見をくれたり、相談できる大人がいるのは、ありがたいなと思います」(千さん)