転換性障害としての高齢者うつ

 一方で気になるのは、「もしかしたらうつや、認知症を発症しているのではないか?」といった、親の異変に気がつけるのか、ということ。埼玉みらいクリニック院長・岡本宗史さんに話を聞くと、

「葛藤やストレスといった心理的要因が、身体症状として転換される──という意味で、転換性障害と呼ばれているのですが、動悸(どうき)や頭痛、めまい、不眠といった症状を引き起こします。コロナのような外的要因によって、そういったストレスを感じ、転換性障害になる高齢者は少なくないものです」

 一般的なうつ病とは違い、年をとることで身体の衰えやひとり暮らしの生活に孤独を感じ、転換性障害としての“高齢者うつ”と呼ばれるうつ症状になるケースもあるという。そこにコロナ禍というぬぐえない不安が重なるともなれば、心身への負荷はさらに大きくなる。結果、認知症へと発展することもあるというから厄介だ。

「人によって差異はありますが、行動量や積極性が下がる、つまり以前はできていたことができない、もしくはやらなくなってしまったといったケースが見られる場合は、家族はアンテナを張っておいたほうがいいでしょう」(岡本さん)

リスクを強調する情報に惑わされない

 また、コロナ不安が誘発するうつ病の傾向として、「情報量の少ない人がなりやすいことが、統計的に示されている」とも。

 だからといって、むやみやたらに情報を得るのではなく、客観的な情報に基づく情報量でなければ意味がないとも。一例を挙げて岡本さんが説明する。

「重症化しやすい要因に“肥満”があると言われています。ところが、実際に重症化しやすいケースは、BMIが40以上、160センチの人であれば、体重105キロでBMIが41。つまり、相当な肥満でない限り過度に怖がる必要はないわけです。糖尿病など基礎疾患にも同じようなことがいえます」

 どの程度から危険水域になるのか、きちんと自分で調べることが大切。メディアは、あたかも十把一絡げ(じっぱひとからげ)のように「〇〇は危険」と扱うが、そこに落とし穴があると苦言を呈す。

「コロナによって亡くなったとされる方の致命率は0・8%ほどといわれています。メディアは、『重症化すると2倍に跳ね上がる』と喧伝しますが、2倍といっても1・6%です。俯瞰(ふかん)してみると、大きな数字ではない。ですが、2倍と言われると人は過度に恐れてしまいます。リスクを大きく印象づける数字や言葉に惑わされないこと。

 そして、明確に情報源が裏づけされている情報を知り、不安がる人に伝えることも、コロナうつを回避するうえで重要なのです」(岡本さん)

 多くの一般人が、わかりやすい数字や文言に踊らされ、不安に陥っている現在、

「大多数の医師が見解を示しているように、新型コロナウイルスを指定病院でないと治療ができない結核などと同類の“2類”相当以上指定感染症扱いから、一般病院でも治療ができるインフルエンザと同じ“5類”に引き下げるなどの措置も視野に入れるべきでしょう」

 こう岡本さんが提唱するように、ミスリードを防ぐため、行政が正しい理解のもと積極的に動くことも必要だろう。