感染拡大とともに離婚危機が多発

 もし香織さんが湯沸し器のように頭に血がのぼったのなら、筆者も「もう少し冷静になったほうが」と翻意を促したでしょう。しかし、外飲み常習の件はあくまできっかけに過ぎず、積もり積もった不満が限界を超えた結果なので、筆者は香織さんの背中を押しました。香織さんは夫がいない人生……つまり、離婚を選択したのです。

 離婚の原因が借金や不倫、暴力だとしたら、話は別です。何もせずに静観していると大変なことになります。例えば、カードローンの未返済分を消費者金融で借り入れしたり、不倫相手が「彼と別れてちょうだい!」と乗り込んで来たり、物ではなく人に八つ当たりして怪我をしたり……目の前の状況は日に日に悪化の一途を辿るでしょう。

 しかし、今回の離婚原因は広い意味で性格の不一致です。明日にでも夫が想像だにしない悪事を仕出かす可能性は低いです。今すぐ離婚しなければならない緊急性は低いでしょう。そのため、不要不急の離婚です。コロナ禍において不要不急の手続きは後回しにする傾向があります。筆者の目には「なぜ今のタイミングなのか」という必然性が薄いように映りました。実際のところ、「外飲みで午前様」がここまで強く糾弾されるのはコロナ禍だからです。コロナ前はよほど度が過ぎない限り、世の多くの妻たちは見て見ぬふりをしていたはずです。

 コロナショックが起こらなければ、なんだかんだで結婚生活が続いていたかもしれない。そう思いをはせると香織さん夫婦は「コロナ離婚」に該当するでしょう。

 筆者の元にコロナ離婚の相談が寄せられ始めたのは昨年4、5月の緊急事態宣言のとき。そして宣言解除から11月までの間、この手の相談は減りつつありました。そして年末年始から2回目の緊急事態宣言にかけて再度、増加しています。つまり、コロナウイルスの感染者数とコロナ離婚の相談者数は比例しているのです。残念ながら、コロナウイルスの終息には今しばらく時間がかかりそうです。それはコロナ離婚の危機が続くことを意味するので、思い当たる節がある人は注意してください。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/