慰謝料の請求先は恵梨香ひとりだと念押し

 咲良さんは被害者、恵梨香さんは加害者です。ただでさえ咲良さんは傷ついているのに、身勝手な言い訳のせいで傷口は2倍、3倍に広がっています。一方で加害者の恵梨香さんは自分が何を言えば相手がどう思うのかを察する能力が抜け落ちているのでしょう。まるで咲良さんの傷口に塩を塗るのを楽しんでいるかのごとく、また別の言い訳を言い放ったのです。今度は夫に責任を押し付けようと画策。

「私と彼は連帯責任ですよね? 奥さんのことを蔑ろにした彼にも責任がありますよ! 私に請求する前に、まず彼に責任をとらせるのが筋じゃないんですか!!」と。

 婚姻期間中に起こったトラブルの慰謝料は、その都度、清算するのではなく、「離婚時にまとめて清算する」のが原則です。今回の場合、咲良さん夫婦は離婚するつもりはありません。そのことを踏まえた上でこう切り返したのです。「主人が慰謝料を払うのは今じゃないの。それに主人があなたの慰謝料を立て替えることは期待しないでね。自分の尻は自分で拭いてください」。今回の請求先は夫との連名ではなく、恵梨香さんひとりだと念押ししたのです。

 最初は夫のほうが熱心だったとしても、途中で別れずに今まで関係を続けたのは恵梨香さんの責任です。彼女が貯金を1円も減らしたくない一心で夫と仲間割れしたように装ったとしても、自分が何も悪くないと言い切るのは無理です。責任の所在については、例えば、夫6に対して恵梨香さん4の割合が、7:3や8:2に変わるくらい。しょせんは悪あがきに過ぎません。

 直談判の場はファミレスで、咲良さんと恵梨香さんが座っているのは4人掛けのボックス席でした。しかも、2人は向かい合わせではなく隣同士。そのため、咲良さんが自ら退席しない限り、彼女は咲良さんの身体が邪魔で、勝手に退店することが物理的に困難な状況でした。慰謝料を1円も払わずに解放してもらうのは無理。長い口論の末、ついに恵梨香さんは「払えばいいんでしょ!? 払えば!!」と慰謝料を払う意思を示したのですが、それは全部ではなく一部。

 恵梨香さんは「彼から聞いていると思いますが……コロナで手取りが減っているんです。今は苦しくて余裕がないから」と急にしおらしくなって弁解。彼女いわくコロナウイルスへの感染を恐れた高齢者家族がデイサービスの利用を敬遠。利用者が前年比で8割も減少した月も。女性の基本給は18万円のままですが、いつも定時で退勤するので残業代(3万円)がゼロ。一方、夫は管理職で、もともと残業代は支給されないので咲良さんはピンとこなかった様子。

 請求額のうち、一括で払えるのは20万円だけ。残りの80万円は分割(毎月1万円×80か月)にしてほしいと言うのです。80か月とは6年と8か月ですが、あまりにも長すぎます。途中で振り込みが遅れたり、止まったり、金額を減らされたりしたら、どうするのでしょうか? 「月末までに振り込んで」「不足分を納めて」「1回分、足りないんだけど!」と電話やメール、LINE等で催促しなければなりません。ただでさえ憎い恵梨香さんに、慰謝料の延滞時に振り回されるなんて馬鹿馬鹿しいでしょう。倫理観や社会常識が欠如している相手と接点を持つのは疲弊するだけです。最悪の場合、恵梨香さんが連絡先を変更し、音信不通になり、催促すらままならなくなる可能性もあります。