日本人名義の口座に85万円を振り込むことに
11月下旬には、こんな相談を持ち掛けられた。
「石油を掘るための機械が壊れたというのです。彼は新しい採掘機械を購入したいが、自分の使っている会社用PCは機密情報が漏れることを防ぐため、外部のサイトにアクセスすることが制限されているというのです。だから、“僕の代わりに僕の銀行口座にログインして送金してほしい”と……。ちなみに私との直接の電話も仕事の契約上で禁止されていてできないと言われました」
当初は機械を販売している会社への送金を依頼されたが、送金できず。次に大林さんの口座への送金を試したがダメ。最終的に銀行のホームページからサポートデスクに連絡をしてくれ、と言われて従った。
「実際にちゃんとしたホームページもあるトルコの『ZIRAAT UNION OFFSHORE BANK』 という銀行で、彼の口座にログインをすると1億円以上の残高がありました。送金が弾かれてしまうのは、トルコ政府の指針だと銀行のサポートデスクに言われてしまって」
結局、大林さんは'20年11月26日、自身の口座から日本人名義の口座に85万円を振り込むことになる。
「銀行のサポートデスクから、“税金を支払わないと口座のお金は没収する”という連絡があったので、それを彼に伝えると“利子をつけて返済するから、振り込んでほしい”と言われたんです。不安ではありましたが、彼も“こういう仕事は初めてじゃない、中国とも仕事をしたことがある”というので、信用してしまいました。何より、彼に助けを求められて嬉しかった。何か力になってあげたいと思って」
銀行からは日本にいるエージェントに振り込んでほしいと連絡が。《カトウケンジ》という日本人男性の口座だった。
「不審に思いましたが、彼に聞いても、“銀行の指示どおりにするしかない”と言うだけ。本当に大丈夫かな……と思いつつも85万円ならと思って振り込んだんです。ちなみに日本人名の振込先はほかに《ナカジマテツオ》という人もいました」
これで問題も解決……と思いきや再びトラブルが起こり、お金を要求される。
「テロリストではないことを証明する証明書の取得が必要でお金がかかるとか、機械の送料が必要になったなどの連絡があり、再びお金を振り込んでほしいと……」
この金銭の要求にも、巧妙な手口があったという。
「証明書に関しては、本当にあるんです。機械にしても彼が機械の販売元と話をつけ、後払いするから採掘機械を先に送ってもらうことになっていて、その送料分だけを私が建て替えたのです。販売元から荷物を送った旨のメールが届き、荷物の位置がわかる照会URLが記載されていました。ただ、後から調べたら数十ドル払えば誰でも作ることができるサイトだったんです」