長嶋茂雄さんの素顔

 世間一般では、長嶋さんといえば“突出している人”という印象が強いかもしれないけど、とっても思いやりの気持ちが強い、素敵な方。例えば相づちを打つとき、「そうなんですよね、冨士さん」と、必ずと言っていいほどセンテンスの最後に相手の名前をつける。自分の意見を述べるときも、「僕はこう思うんですよ、冨士さん」と相手をおもんぱかる。この会話術は、素敵。

 私にとって長嶋さんは神様のような存在。私は、誠実な長嶋主義者。長嶋さんの野球は「善意の野球」だと思っている。言葉遣いや立ち居振る舞い、そのすべてが善意で包まれているような印象を受けた。

 長嶋さんはもちろんだけど、プロ野球選手って、カッコいいのよね。田淵幸一さん、山本浩二さん、故・星野仙一さん。実物も素敵だけど、テレビにもかぶりつく。

 私が一時期、中日に“浮気”していたときは、落合博満さんとも。奥さんの信子さんとはとても仲がよくて、よくお会いしたわね。

「福嗣のおむつ入れに買ったけど、使わなくなったから」って、特注のパイソン革の大きなバッグをもらったほど。詳細は、また今度。福嗣君も、あんなに立派になってね

 話は戻って、長嶋さんが監督をなさっていた時代は、よく球場へ足を運んで、一喜一憂した。第2次巨人監督時代の2001年のペナントレースの終盤、東京ドームのラストゲームだった10対11で負けたスワローズ戦も現地で見ていた。スリリングで、魅せる野球

 でも、その敗戦が響き、優勝を逃した長嶋さんは勇退した。長嶋さんのユニフォーム姿はもう見られないかもしれない。だけど、わが家のトイレにはその年のカレンダー─、松井、清原、マルちゃん(マルティネス)、由伸、清水らが長嶋さんを囲んで一枚に収まっている姿が、飾られたまま。野球にも、出会いと別れがある。だからこそ、応援のしがいがある。


ふじ・まなみ 静岡県生まれ。県立三島北高校卒。1956年NHKテレビドラマ『この瞳』で主演デビュー。1957年にはNHKの専属第1号に。俳優座付属養成所卒。俳人、作家としても知られ、句集をはじめ著書多数。

《構成/我妻アヅ子》