元夫と直接やり取りせず、養育費を取る方法
そこで筆者は「今度は前の旦那さんの給与を差し押さえては?」と助言しました。具体的には職場が元夫へ給与を支払う前に直接、真央さん(もしくは娘さん)の口座に養育費の未払い分を振り込んでくれるというもの。残った分は元夫の口座に振り込まれるという、いわゆる給与天引きが可能。しかも一度、手続きを踏めば最終回、つまり今回の場合は娘さんが22歳まで自動的に天引きされるので非常に便利です(民事執行法151条2)。
しかし、真央さんは「がっかりしましたよ!」と落胆します。裁判所へ申立をしたものの、養育費を回収できなかったのです。なぜなら、職場が「該当者(元夫)は在籍していないので給与や賞与の差し押さえには応じられない」と回答したから。真央さんが申立書に記入した会社名は離婚時の職場で元夫はすでに転職した模様。元夫の職業は薬剤師で、「資格があれば、どこでも働けるので……」と真央さんは愚痴をこぼします。元夫は転職が多く、結婚生活の中で3回も薬局を変更したそう。新しい職場を聞き出すべくLINEを送っても元夫は無視。かといって探偵でもない素人が元夫の職場を特定するのは難しいでしょう。
2度目の絶体絶命を救ったのも今回の法改正でした。まず真央さんは地方裁判所へ「第三者からの情報取得手続」を申し立てると、裁判所は元夫が居住する地の市役所へ元夫の勤務先を開示するよう命令し(民事執行法206条)、市役所は住民税の源泉徴収の情報をもとに元夫の勤務先を把握。裁判所へ会社名と所在地を開示しました。
このように真央さんは元夫を介さずに新しい職場の情報を入手、再度、給与差し押さえの手続きを行ったところ、3月25日に8万円が振り込まれたのです。真央さんは「ちゃんと(養育費が)入ってきて安心しました」と感激します。そして今後も毎月25日に8万円を受け取れる予定です。こうして真央さんはバツイチからバツニになっても暮らせるだけの養育費を手に入れることに成功したのです。大学の学費については離婚後、改めて奨学金を申請するということでした。
「今さら養育費の請求なんて」と尻込みしないで
国内でコロナウイルスの感染が拡大してから1年以上が経過し、富裕層、貧困層を問わず、あらゆる人たちに経済的な打撃を与えました。中でも深刻なのは貧困層。最低限の収入で最低限の生活をしている人たちです。収入が最低限を下回ったら、明日の生活は成り立ちません。
国や地方自治体は貧困に陥ったひとり親家庭に対して、さまざまな公的支援を行っていますが、今回紹介した新制度は盲点です。運悪く、法律が施行された昨年4月は、メディアはコロナ一色で積極的に報じませんでした。生活を立て直すのは自助努力が第一です。公的支援には限界がありますし、支援の方針に左右されるので不安定です。一方、新制度は自分で動かなければなりませんが、待っているより早くて確実。そして達成感は段違いです。
「今さら養育費を請求するなんて」と尻込みしないでください。新制度を利用する上で元夫と直接、連絡をとる必要はないのでご安心を。今後、ますます拡大するであろう格差社会のなかで、ひとり親家庭が貧困に陥らないよう、そして貧困から抜け出すために取り組んでほしいと思います。
露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/