アスリートには、この偉業はどう映ったのか。北京五輪の男子400メートルメドレーリレーの銅メダリストで、現在はスポーツ解説者を務める宮下純一さんはこう語る。
「率直に“本当に病気をしていたのかな”と思いました。プロの水泳選手の場合、大きな大会の後、次のシーズンまで1か月くらいオフを取ったりしますが、それでも練習再開時に筋力の低下を覚えます。彼女がプールでの練習を再開したのは、昨年3月。1年近くのブランクは取り返しがつかなくなりかねません」
治療に時間を取られながらも、トレーニングを重ねていたようだ。
「前評判では“エントリーした種目を全部泳ぎきれるか”という懸念の声もあったほどでした。しかし彼女は懸垂などで肩甲骨まわりを重点的に鍛え、体重も増やして水を押し返すパワーと推進力を得ていました。泳ぎにも迷いや苦しみを感じさせませんね」(宮下氏、以下同)
この復活劇は彼女の人柄やメンタルの強さも大きい。
「以前、対談したこともありますがとてもまっすぐな子ですよね。結果を出している選手だと天狗になったりするものですが、彼女はいつもきちんと受け答えします。そんな人柄だからこそ、みんな手を差し伸べたり応援したくなるんだと思います」
周囲の期待を背負い、それに応える彼女。実際、今回の復帰にも多くの支えがあった。
「栄養士をつけて体重と栄養管理をし、コーチたちも白血病の闘病中である彼女にどのような練習をさせるか苦心したようです。担当の西崎勇コーチは“頑張りすぎないように頑張らせるのが大変”と語っていました。周囲の支えが大きかったと思います」
地元・江戸川区から歓喜の声
吉報に沸く池江の地元・東京都江戸川区だが、彼女と家族ぐるみの付き合いがある『ヘアーサロン安曇野』の店主の喜びは計り知れない。
「最近は会えてないけど、成人式の写真を彼女のおじいさんからいただいたので店内に飾っています。病気を治しただけでもすごいのに五輪なんて夢のようですよ」
その写真は成人の日にインスタグラムに投稿された晴れ着姿。これは都内のフォトスタジオで撮られていたようだ。
「2020年の年始、つまり退院してまもなく撮影しに行ったそうです。池江さんの仕事先の紹介で知ったそうですが、完全にプライベート撮影のようでした」(池江家の知人)
自身の成人式の1年前に撮影した晴れ着姿。それには並々ならぬ気持ちがあった。
「1ポーズ約1万円というスタジオだったそうですが、50ポーズくらい撮って、費用は約50万円ほど。一般的な成人式の写真って数万円とかですから規格外ですよね。一緒に祖母、祖父、母親、兄、姉も含めた家族写真も撮影したそうです。
当時は、池江さんの容体がこの先どうなるかわからない状況でしたから、万が一のことを考えて早めに、そして多めに成人式と家族の写真を撮ったんでしょうね」(同・池江家の知人)