生きる気力を与え、病さえ癒す犬猫たち

 '12年から現在に至るまで、ペットと高齢者との暮らしを見続けてきた若山さん。そこには、さまざまな出会いがあった。

 施設の入居者である沢田富與子さん(76)は、60代で病を患い、たったひとりの家族である愛猫の祐介を遺したまま自宅で自分が死んでしまったら、どうしようと考え続けていた。祐介とともに自死を考え、病院からもらってきた睡眠薬をふたり分、蓄えたこともある。そして、思い詰めるあまり、身体を壊して入院してしまったのだ。

 しかし、『さくらの里 山科』に出合い、祐介とともに入居したことで、生きる力を取り戻した。沢田さんは「今がいちばん幸せ」と言うほど、ここでの祐介とのおだやかな暮らしに満ち足りていた。

 沢田さんは幼いころから犬や猫、メジロを飼い、セグロセキレイを保護したこともある。小さな動物園のような家で育ち、動物のいない世界など、信じられなかった。自分の子どもと同じだと思って祐介も育ててきた。

自分が好きで飼っていた動物は、自分が面倒を見られなくなったとしても、本当はそばにいたいし、癒される存在なんですよね」(沢田さん)

 だが、独居の高齢者には、それは叶わないのが現実だ。かつての沢田さんのような不安を抱える高齢者は、いまもどこかにいるのかもしれない。最期のときまでペットと暮らせる、そして、自分が先に死ぬことがあっても、施設が大切に飼い続けてくれる──。そんな安心感が、沢田さんの生きる力になった。

「その祐介が、実は、先日、亡くなりました」

 沢田さんが大きな悲しみの中でも気丈に取材に応じてくれたのは、「小さな命のことも大切にしてほしい」、そして「こういった施設が増えてほしい」という思いからだった。

きれいな顔で、苦しまずに14歳で逝きました。小さな命にも、温かく向き合ってくれるこのホームに、祐介が私を導いてくれたんです。このホームで、たくさんの方に大切にされて、祐介は本当に幸せでした。こんな施設が増えてほしい。そう、(記事を通じて)伝えてほしいんです

沢田さんと、愛猫の祐介。共にホームへ入居して7年、最期まで一緒に過ごすことができた
沢田さんと、愛猫の祐介。共にホームへ入居して7年、最期まで一緒に過ごすことができた
【写真】『さくらの里 山科』の施設内、入居者がワンちゃんたちと触れ合う様子

 祐介くんへの深い愛情と死の悲しみとを、心を込めて、そう語ってくれた。

 一方、沢田さんは友人たちから、「きっと料金が高い施設なんでしょう?」と言われることもある。

“入居費は私の年金だけよ”と言うと、驚かれます。高級な老人ホームでも、動物はダメというところが多いんですよね。それに、豪華なことより、安心できることが大切です。ここは職員さんも動物好きな人たちばかりだから、安心して託せるんです

 動物虐待や、捨て猫・捨て犬の存在に心を痛める沢田さんは、以前、リハビリ室の外に放置されていた猫を、「さくらの里 山科」の職員が「私が引き取ります」と言って連れて帰ったことを、よく覚えている。

「この施設で本当によかった、と思いました。信頼できますよね」