娘と友達感覚で接する無責任な夫
実は莉緒さんが夫に足を引っ張られたのは今回が初めてではありませんでした。筆者が莉緒さんの相談に初めてのったのは2年前。一般的に思春期の子どもは父親を嫌うことが多いですが、娘の莉愛さんは例外でした。例えば、韓流アイドルのライブ、スーパー銭湯のマッサージ、タピオカ店の行列など、夫は娘さんとのデートを楽しむほど仲がよかったのですが、夫の「父親らしからぬ態度」に莉緒さんはずっと悩まされてきました。
例えば、娘さんの進路について「お前の好きにすればいい。高校は行きたければ行けばいい」と無責任な言葉を並べたそう。まだ未熟な娘さんはその言葉を真に受け、中学卒業後の進路は「ドローンの技術を勉強できる専門学校がいい」と言い出しました。その専門学校は昨年、定員割れを起こしており、望めば誰でも入学できる状態。学歴にこだわる莉緒さんは「あり得ない!」と激怒し、思いとどまらせたのです。
「あの人は自分が父親だと自覚しているのでしょうか?」と莉緒さんは首をかしげますが、娘さんと友達感覚で接する夫が理解できませんでした。当時、筆者は「奥さんの性格を考えると、知らず知らずのうちに娘さんに厳しく接しているはず。アメとムチでちょうどいいバランスなのでは?」と助言しました。夫婦間に溝はあっても致命傷には至らず、切り傷程度の軽傷を繰り返しながら、のらりくらりとやっていける……そんなふうに様子見をするつもりだったのですが、その1年後に「ある事件」が起こったのです。
当時、1回目の緊急事態宣言が発令されました。そのせいで中学校や塾の自習室は利用禁止に。さらに莉緒さん、そして夫はどちらもリモートワークに移行。そのため、娘さんは両親の監視下で慣れないリモート授業を受けざるをえなかったのです。
受験生の娘さんは集中しにくい自室学習で調子が狂ったのでしょうか。5月の模試では志望校がE判定(合格率20%以下)。その結果を見た莉緒さんは「やる気あんの! このままじゃ、ママみたいになっちゃうよ!」と叱責しました。娘さんが「勉強があるから」と追い払おうとしても「ママに恥をかかせないでよ!」と追撃。そうすると娘さんは真っ赤な顔で部屋を飛び出し、そのまま自宅から出て行ったしまったのです。
そして娘さんは20時になっても戻らず……相談を受けた筆者は「電話にも出ないんですか?」と投げかけたのですが、莉緒さんは勉強の邪魔になるからと長女からスマホを取り上げたそう。教育熱心な莉緒さんの性格が裏目に出た格好です。
莉緒さんは慌てて学校の担任、部活の顧問、同級生の親に片っ端から電話をかけたのですが、「わからない」という返事ばかり。自宅周辺のコンビニ、ガソリンスタンド、ドラッグストアを訪ね、長女の特徴を店員に伝えても「見ていない」と答えるだけ。
一方、夫の様子はどうだったのでしょうか? 莉緒さんは「犯罪に巻き込まれたらどうするの? 休業中の店ばかりだし、人通りも少なく、治安が悪いのに!」と訴えるも、夫はスマホを操作し、パチンコやスロットのゲームに夢中。「そのうち戻ってくるだろ?」と言い、まるで他人事のよう。娘さんを探しに行く気配はなし。莉緒さんが最寄りの警察署へ相談しに行こうとすると「いい加減にしろよ! お前はいつも過保護なんだよ。あの子は何歳だと思っているんだ!?」と逆ギレ。
結局、莉緒さんの心配は杞憂に終わり、21時過ぎに長女は平然と帰宅したそうですが、「娘に何かあったらと考えると胸が張り裂けそうです。あの人は能天気すぎるんですよ!」と、莉緒さんの怒りがおさまりません。筆者は「家出をしたのは旦那さんのせいではないので、あまり事を荒立てないほうがいいのでは?」と諭したのです。