夫婦の関係悪化とともに娘の成績も悪化
それから年が明け、莉緒さんから連絡がありました。
「10月、11月は5万円でしたが、12月、1月は10万円近くかかりました」
と、ため息まじりで言いますが、これは塾代の話。娘さんの学力では集団のクラスについていくことができず、個別指導に変更して塾を続けるか、塾をやめて家庭教師をつけるかの二択を迫られたのです。もともと塾の申し込みは娘さんが乗り気ではなかったのに莉緒さんが押し切った格好でした。個別指導、家庭教師のどちらを選んでも費用は大幅に増えます。莉緒さんの給料で払うのは無理な金額でした。
そこで夫に相談したところ、夫は塾に申し込む経緯を蒸し返し、「お前が勝手にやったことだろ?」と反発。娘さんに聞くと家庭教師より個別指導がいいと言うのですが、夫は「お前に逆らえないだけだ」と一蹴。「あの人(夫)が反対する理由は、本当はコロナで残業代が出ないからなのに……」と莉緒さんは嘆きます。結局、莉緒さんは父親に泣きついて援助してもらい、家計の帳尻を合わせたのですが、夫への不信感がつのるばかり。
しかし、緊急事態宣言中の落ち着かない学校生活が災いしたのでしょうか。塾の成果は乏しく、個別指導に切り替えた恩恵も少ないまま、娘さんの2学期の成績は惨憺たるもの。5段階で3を上回る科目はなかったそうですが、それもそのはず。
自宅待機でリモートワークを続ける莉緒さんと夫は、ますます関係が悪化していました。「喧嘩をするほど仲がいい」と言いますが、もはや喧嘩をするのを避け、なるべく顔を合わせないようにする冷戦状態。娘さんが前向きな気持ちを抱き、明るい将来を見て、一生懸命に頑張れる環境には程遠かったのです。
塾の個別指導に遅刻したり、中学校の授業を「お腹が痛い」と早退したり、自室で自習せずに友達とLINEをしたりした結果が成績に現れていました。結局、冒頭の三者面談は莉緒さんが参加して行われ、そこで担任の先生からは学区の中で下から2番目の高校を受験するように勧められたのです。莉緒さんは頭を抱えました。「何のために塾に行かせたかわからない!」と。
受験前日に夫が信じられない行動を
そして最も大きなトラブルが起こったのは受験の前日でした。夫と娘さんが二人で出かけようとするのを発見。二人とも髪を整え、普段使いではないコートを着て、カシミアのマフラーを巻いていたのですが、莉緒さんが「どこに行くの?」と尋ねると、夫は「お台場だよ。ヴィーナスフォートで買い物をするんだ」と返答。受験の前日に遊びに行くなんて信じられない! と、莉緒さんはあぜんとしました。
「明日、何の日か知っているの?」と追及しても、夫は知らぬ存ぜぬという感じ。莉緒さんは急いで父娘のデートをやめさせたのですが、夫が受験のスケジュールを把握していないことに愕然としたのです。
そして迎えた受験日。緊張している娘さんにたくさんのアドバイスをしても仕方がありません。莉緒さんは「遅刻せずに到着すること」「トイレが近くなるから水分を摂り過ぎないこと」「受験票を忘れずに持っていくこと」だけを伝え、娘さんを送り出したのです。
とはいえ志望校のランクを2つも下げたので、娘さんは無事に合格することができました。