自販機で買って移動したら家に持ち帰る

「自販機横のリサイクルBOXに入れていいものは、基本的にその自販機で購入した飲料の空の容器だけです」(同担当者)

 しかし、例えばペットボトル飲料の場合、多くは500ミリリットル入りだからその場で飲み干すケースは少ないはず。キャップもついているわけだし、移動しながら何回かに分けて飲み、空になったところで手近なリサイクルBOXに入れてはいけないのか。

ペットボトル飲料は持ち運びしやすいため“やめてくれ”とまでは言えないが、お願いはしたいですね。持ち帰って家庭ごみとして出していただけるのがいちばんありがたい。排出事業者責任といって、その自販機を設置して飲料を販売している者が、自らの責任としてコストをかけて空容器を回収していることをご理解いただきたい」(同)

 新型コロナウイルスの影響で飲料自販機の売り上げは落ちているという。外出の機会は減り、リモートワークによってオフィスに設置された自販機などの利用機会も減っている。

 全清飲が加盟する「PETボトルリサイクル推進協議会」にも話を聞いた。

「街中にごみ箱がほとんどないせいか、リサイクルBOXをごみ箱扱いする人が後を断ちません。異物が入り混じった空容器を回収しているのは、多くは飲料を補充するときの業者です。リサイクルするために運搬する手間も費用もかけています。正しく投入されたペットボトルの空容器にしたって、ラベルもキャップもついていますからリサイクルするまでの手間はかかります」

 全清飲によると、ペットボトルの空容器をペットボトルとして再生する高度リサイクル「ボトルtoボトル」の比率を高めるためさまざまな取り組みをしているという。ペットボトルを別の素材にリサイクルするよりも、再びペットボトルにして資源を循環させたほうが環境にやさしい。そこで2019年には12.5パーセントだったボトルtoボトルのリサイクル比率を「30年までに50パーセントにします」と宣言したばかり。リサイクルBOXに捨てられる異物ごみをいかに減らすかが成否のカギを握りそうだ。

空容器を投入する前にステッカーの確認を

 仕組みを理解できたところで話を元に戻そう。

 冒頭のAさんの行動は、異物を入れたわけではないにせよ、なるべく避けてほしいことに該当するだろう。

 しかし、怒鳴られる行為とは思えない。Aさんはそもそも「リサイクルBOX」とわかった上で、資源循環のためによかれと思って投入していた。分別意識も高く、空容器をゆすいでもいた。

 Aさんがためらいなく投入した背景には、リサイクルBOXに貼られたステッカーがある。表記を見る限り、空容器を積極的に集めているようにもとれる。家庭ごみについては収集責任のある自治体の公共施設だからなおさらのことだろう。

 当該施設を持つS区の担当者に話を聞くと、

「ステッカーには小さく『自販機専用リサイクルボックス』との表記もあります。しかし、混乱を避けるために自販機業者のほうで今年4月、新たな注意書きを張り出しました」

 現場を確認すると、リサイクルBOXのそばに次のような張り紙があった。

《このBOXは飲料の空容器を回収するものですが、ご家庭などで出た空容器に関しては、お住まいの地域の回収方法に合わせてお出し下さい。皆様のご理解とご協力をお願い致します》

 これで再発は防げるはず。

 ちなみに、大型スーパーの店頭や一部公共施設などには“家庭からの空容器持ち込みOK”のリサイクルBOXもある。

 前出のリサイクルに詳しい関係者によると、市町村の回収頻度が低いエリアでは、こうしたBOXが随所に設置されているケースが目立つという。実際、S区にある別の公共施設前にはこのBOXがあった。消費者は空容器を投入する前に確認しておきたい。

自宅から「持ち込みOK」のリサイクルBOXは、大型スーパーの店頭や公共施設に設置されているケースが目立つ
自宅から「持ち込みOK」のリサイクルBOXは、大型スーパーの店頭や公共施設に設置されているケースが目立つ
【写真】ここはゴミ捨て場ではない

 再びS区の担当者。

「今後、持ち込みOKのリサイクルBOXをお尋ねの施設に設置するかどうかは、区民の要望などを踏まえて判断することになろうかと思います。可能性はあります。ただ、契約上の問題などがあるため、すぐ、というのは難しいですね。施設の警備員が持ち込みを注意したのは事実で、注意するにしても丁寧に話すようにしたい」(同担当者)

 当該施設からすれば、回収する業者の苦労などを考えて注意したのだろう。そのやさしさをAさんに対してもみせてほしかった。

◎取材・文/渡辺高嗣(フリージャーナリスト)

〈PROFILE〉法曹界の専門紙『法律新聞』記者を経て、夕刊紙『内外タイムス』報道部で事件、政治、行政、流行などを取材。2010年2月より『週刊女性』で社会分野担当記者として取材・執筆する