実は誰もが気になる『噴火Xデー』は事前に検知するのが非常に難しいという。
「富士山に限らず火山は数時間後、明日、明後日……といつでも噴火する可能性があります。ですが、予測は非常に難しい。富士山以外でも噴火の兆候が表れてから数時間で噴火した事例もあるんです」(前出の吉本さん、以下同)
1983年の伊豆諸島の三宅島、'86年の伊豆大島の噴火では前兆となる地震が発生した数時間後に、いきなり噴火したことがあったという。
「富士山も例外ではありません。兆候が表れてから数時間後に噴火する可能性はゼロではないと考えられています」
予測できないものがもうひとつ、『噴火の規模』だ。台風や大雨と異なり、事前にどのくらいの量のマグマが出るかの予測もできない。
マグマや噴煙の量、一度に一気に噴火するのか、何年も小規模な噴火を繰り返すのかは噴火してみなければわからないのだ。
富士山の噴火には2種類ある。1つは前述の宝永の大噴火のように噴煙を噴き上げる爆発的な噴火。もう1つは溶岩を流すタイプの噴火だ。
「富士山は溶岩を流すタイプの噴火のほうが多く、宝永の大噴火のような大規模な噴火は少ないんです。ですが、次にくるのが大きいか小さいかはわからない。ですからどんな噴火にも対応できるようにすることが大切です」
ハザードマップは、これまでに発生した最も大きな噴火のデータをもとに、最悪を想定して作られているという。
富士山が噴火するとどんな被害が起きるのだろうか。
まず溶岩。1200度、真っ赤に熱せられたマグマが地面から流れ出す。一般的に溶岩を出すこのタイプの噴火に脅威を感じるかもしれないが、実は人的な被害は少ない。
「流れ出た溶岩が建物などをのみ込んで大規模な火災が起きることは避けられません。ですが、人が亡くなることはほとんどありません」
溶岩の流れるスピードは人が歩く速度ほど。
「谷や川など地形的にも低い場所へと流れていくので、流れと別の方向に行けば被害を避けることは可能です」
怖いのは火砕流だ。マグマの細かい破片や火山ガスなどが混ざった数百度以上の気体が一気に流れる現象をいう。時速100キロメートルを超えることもあり、'91年、長崎県の雲仙普賢岳で発生した火砕流により甚大な被害を出したことはいまなお記憶に残る。
「富士山の火砕流は麓にある富士五湖道路にまで到達すると見られていますが、各市街地まで流れる結果にはなっていません。ですが、登山や観光で山の中にいる場合には被害が出るおそれがあります」