「病院に行かないと死んでしまう!」と叫んだが…
ニクラスさんが来日したのは、難民申請中の息子に会うためだった。スリランカで、ある政党支持者だったニクラスさんは、自宅が政敵関係者に急襲され暴行を受ける。殺害予告も受け、家族も身の危険を感じるように。
そのため同年3月20日、息子のジョージさんが日本大使館から観光ビザを取得し、妻と一緒に来日した。日本を選んだのは、申請後1週間以内に迅速に観光ビザが出るからだ。来日後、ジョージさんは東京入管で難民認定申請をした。その結果が出るまではと、就労可能な「特定活動」という在留資格を得る。
8か月後の11月12日、ニクラスさんも観光ビザで羽田空港に着く。だが、入管は「ビザに問題があり確認に1週間かかる」として上陸許可を与えず、ニクラスさんを羽田の入管施設に収容した。
ニクラスさんは17日には東京入管へと移送され、5人部屋をあてがわれた。
19日、ニクラスさんは施設内の医療室で「だるさと頭痛」を訴える。だが、医療室は「問題ない」として痛み止め以外の処置をしなかった。
そして22日午前7時19分。今度は「胸がとても痛い! 病院へ」と訴えた。しかし入管がとった措置は、施設内の監視カメラ付きの1人部屋への隔離だった。ウィシュマさんと同じ措置である。ニクラスさんはあまりの痛みに、「私はクリスチャンだから嘘はつかない。病院に行かないと死んでしまう!」と聖書を手に叫んだという。
同日13時ごろ、ニクラスさんを心配したスリランカ人のRさんが1人部屋に入ると、ニクラスさんは意識がなく大小便が垂れ流し状態だった。ようやく13時44分に救急隊がニクラスさんを東京都済生会中央病院に搬送。だが、15時3分、死亡が確認された。
翌日、ニクラスさんを解剖した東京医科歯科大学の上村公一医師の「死体検案書」によると、死因は「急性心筋梗塞」。発症から死亡確認までは約8時間と推測されている。逆算すると、まさしく「胸の痛み」を訴えた午前7時19分と、ほぼ一致する。