実際、今回の東京オリンピックでは熱中症対策を念頭に置いたIOCの提案で、マラソンと競歩の開催地が北海道札幌市に変更されたほどだ。
首都圏外でも安全な開催は不可能
その北海道も感染者急増で5月16日から緊急事態宣言が発令中。いまや1日の新規感染者報告数が東京都を上回ることさえある。札幌市在住のベテラン看護師(50代)は次のように語る。
「昨年の札幌雪祭りのクラスター発生をきっかけに大量の人の流入が新型コロナの感染拡大を招くという警戒感が道内では強まり、マラソン開催には特に医療従事者で否定的な声が目立ちます。そもそも一般に思われているほど外国人受け入れのキャパシティーがある町ではなく、現在は市内の大規模ホテルの一部は新型コロナ患者の療養に使われているほど。安全な開催は無理だと言わざるをえません」
個別の医療従事者の声だけでなく、全体で見てもオリンピック開催に否定的な空気は漂っている。
国内最大の医療従事者向け情報サイト「m3.com」が5月7~12日に行った意識調査では、「医師やコメディカルの一部が東京五輪・パラリンピックに従事する場合、勤務先や地域の医療提供体制は維持できると考えますか?」との問いに「新型コロナの感染が落ち着いていても、人手不足で維持できない」との回答が開業医で70%、勤務医で60%、看護師で64%に上った。医療従事者がオリンピック対応で駆り出されれば、現場にかなりの負荷をかける可能性が高いことがうかがえる。
そうした中にもかかわらず東京五輪・パラリンピック組織委員会は日本看護協会に対し、五輪開催期間中に看護師500人をボランティアとして派遣するよう要請。これに対し医療・福祉関連の労働組合「愛知県医療介護福祉労働組合連合会」(愛知県医労連)は4月28日からツイッター上で「#看護師のオリンピック派遣は困ります」というハッシュタグをつけた投稿を呼びかけ、5月なかばには賛同するツイートが50万件超に至っている。
愛知県医労連の上部団体でもある「日本医療労働組合連合会」中央執行委員長の森田しのぶ氏も、現状での開催に否定的な見解を示す。