「アメリカのカマラ・ハリス副大統領やカナダのジャスティン・トルドー首相、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は別姓夫婦です。夫婦がお互いの氏名のままでいることで、社会問題が起きたことはありません。それなのに、なぜか日本では認められない。国際結婚では夫婦別姓が基本なのに日本人同士だとダメ。夫婦同姓が強制されている国は世界中で日本だけ。国連から何度も改善勧告を受けている、まさにありえない状況です」
こう語るのは、市民団体『選択的夫婦別姓・全国陳情アクション』(以下、陳情アクション)を立ち上げ、事務局長を務める井田奈穂さん(45)だ。彼女は、企業で広報の仕事をしながら、夫婦別姓も選べるよう法改正を求める活動を続けている。
選択的夫婦別姓とは、結婚したあとも夫婦が希望すれば、結婚前の姓をそれぞれ名乗れる制度のこと。現在、日本の法律では、結婚した夫婦は同じ姓を名乗るよう定められている。つまり夫と妻のどちらか一方が姓を変えなければならないが、実際には改姓した人のうち96%を女性が占めるのが現実である。
夫婦同姓を強制するのではなく、別姓も選べるよう制度を変えてほしいというのが井田さんたちの要望だ。
「わきまえずに声上げて」と小池都知事
4月22日、井田さんと陳情アクションのメンバーは、ほかの2つの団体とともに東京都庁にいた。小池都知事に面会し、選択的夫婦別姓の導入を国などへ働きかけるよう促す要望書を渡すためだ。
記者会見でおなじみのグリーンのジャンパーに黒のスカート、マスク姿で現れた小池都知事に、井田さんたちは要望書を手渡しこう伝えた。
「私たちが全国各地で行った意識調査では、東京都民の約75%は選択的夫婦別姓に賛成です。特に20代女性は41・1%が、自分が結婚するときに“夫婦別姓が選べるといい”と答えています」
すると小池都知事はこんな話をしてくれた。
「名字の問題というのはとても大切です。(女性が)リーダーになれば登記の問題とか、海外出張とか、研究論文を書くとか、そういうことがたくさん出てくるので、大変な思いをしてらっしゃる人がたくさんいらっしゃいますよね。私の海外出張に帯同してくれた秘書のパスポートが旧姓使用だったために、“あなたの名前どっち?”と問題になって、煩雑な確認が必要になったこともあるんですよ。
そもそも(世界の中でも日本は、男女格差を示す指数の)ジェンダーギャップが120位という大問題もありますから、国会で動いてもらわないといけないことがいっぱいありますね。これからもわきまえずに声を上げていただきたいです」
好感触を得られたのは都知事だけではない。
井田さんらは5月14日に埼玉県庁を訪ね、大野元裕県知事にも要望書を手渡した。
大野知事はこう断言した。
「国は基本的な人間の権利をしっかりと尊重していくべき。その中に私は“氏の選択ができる”も入っていると考えています。(姓を)選ぶ自由、権利は国が制限するべきものではない。私は一貫して選択的夫婦別姓に賛成しています」
いまや各紙の世論調査では6割~7割が賛成する選択的夫婦別姓。その実現を求める裁判も全国で相次いでいる。次の衆議院選挙の争点になるともいわれている。
なぜ「姓を選べる社会」が求められているのか? その理由や背景はさまざまだが、井田さんら当事者の抱える思いはみな、切実だ。