「ハコちゃん、自由に好きなことをしな」
安田さんが亡くなってからは、黒い服しか着ず、喪に服していたという山崎。
「彼の子どものころの写真を見たり、彼が載っている昔の記事を読んだり、あらためて安田さんの軌跡を追っている時間でした。そのうち『あの曲のギターを弾いていたのは安田さんなんです』と多くの人に知ってもらいたくなりました。
それで、アルバムを作ろうと思い立ち、たくさんのミュージシャンから快諾をいただき、形にすることができたんです。バックミュージシャンはシングル盤では名前も載っていませんが、歌い手にとっては欠かせない存在です。安田さんは、歌に触れずに寄り添ってくれるギターで、だからいつも私は、プレッシャーの中でも心地よく歌うことができました。
井上陽水さん、石川さゆりさん、松山千春さんなど、いろんな方がこのCDの中で競演していて、それをつないでいるのが安田さんのギターなんです。本当にいい曲ばかりなので、ぜひ一家に1枚置いてほしいですね」
かわいがってくれている芸能界の仲間の存在もありがたい。
「(同じく夫を亡くした)お世話になっている歌手のイルカさんは『気持ちは何にも言わなくてもわかるからね』とメールをくださいました。同じ経験をされた先輩方からも。パートナーを亡くして、この気持ちをわかってくれる人はここにもいる。元気を出さなくては、と思いました」
一周忌があけ、ようやく最近は笑顔も少し出るようになったという山崎。
「安田さんは、結婚したときのように『ハコちゃん、自由に好きなことをしな』と天国で思っているでしょうから、これからは大好きな芝居などにもまた足を運びます。
再会するためには早く死ねばいいわけではありません。第一、安田さんが喜ばない。人生を全うしたら、絶対会える。それを胸に、音楽を続けながらこれからも生きていきます」
『山崎ハコ セレクションギタリスト安田裕美の軌跡』(税込み3300円 テイチクエンタテインメント)
井上陽水、小椋佳、松山千春をはじめ、数多くのアーティストとレコーディングをしてきたアコースティック・ギターのトッププレーヤーの、当時のオリジナル音源を集めた軌跡。
1957年、大分県生まれ。高校在学中、コンテストへの出場がきっかけで1975年にアルバム『飛・び・ま・す』でレコードデビュー。パワフルな声量・表現力を誇る歌唱と、暗く鋭く愛から社会をえぐる歌詞で、デビュー当時、中島みゆきのライバルと言われた。シンガー・ソングライターとして活躍する一方で、エッセイの執筆、舞台出演など多彩な活動を行う。
〈取材・文/紀和静〉