加害の原点
殺人事件などに比べ、詐欺や横領の場合、犯行手口に焦点が当てられ、その動機が掘り下げられることは少ない。お金はないよりもあったほうがよく、あればあるだけいいと考えるのは当然のことかもしれない。
しかし、正当な手段で豊かな生活を手に入れられる立場にある者が、あえてリスクを冒すのはなぜなのか。若年者の犯行の場合、生育歴に原因が潜んでいるケースは少なくない。
智也と祐樹は、家庭の中で無条件に愛される経験を欠いていた。まるで成果に対する報酬のように、親の期待に答えることを条件に、家族の一員として認められるのである。
智也にとって金は、支配欲求を満たすものであり、祐樹にとってはコミュニケーション能力の欠如を補うためのものだった。そして2人には、リスクを選択するにあたって歯止めになるような、守るべきものがなかったのだ。
金や権力に過剰に固執する人の中には、自己肯定感が低い人も少なくない。価値観の歪みに気が付くことが更生の第一歩である。
桜井容疑者、新井容疑者もまた、「加害の原点」と向き合って欲しい。
阿部恭子(あべ・きょうこ)
NPO法人World Open Heart理事長。日本で初めて犯罪加害者家族を対象とした支援組織を設立。全国の加害者家族からの相談に対応しながら講演や執筆活動を展開。著書『家族という呪い―加害者と暮らし続けるということ』(幻冬舎新書、2019)、『息子が人を殺しました―加害者家族の真実』(幻冬舎新書、2017)など。