子どもを望み、不妊治療に取り組むが…

 そんなふうに萌美さんの口から漏れてくるのは価値観や考え方、性格が違うエピソードばかり。筆者は「この二人はどこに惹かれ合ったのだろう」と不思議に思いましたが、萌美さんいわく「よかったころ」もあったそう。二人の共通点は「動物好き」。

 夫と出会ったころ、折れ耳がかわいい猫で6歳になるスコティッシュフォールドを飼っていた萌美さんは、ペットを可愛がる夫の姿を見て好意を寄せたそう。萌美さんは小さいころから、ペットと子どもを一緒に育てるのが夢でした。たくさんの思い出を作るのを楽しみにしていましたが、いかんせん、萌美さんが結婚したのは39歳。

 夫も同じく、子どもが欲しいと思っていましたが、なかなか自然な形で授からず……「不妊治療へ切り替えたんです」と萌美さんは回顧します。1年目は3回、人工授精を試したものの結果は出ず。2年目は病院を変え、人工授精を続けたもののコウノトリがやってこず。そして3年目は体外受精に望みを託したのですが、やはり上手くいかず。

 萌美さんは「入院までしたのに何でなの!」と憤りますが、すでに85万円(1年目に15万円、2年目に18万円、そして3年目に52万円)を投げうっており、貯金が尽きるまで治療を続けることを覚悟していた矢先、巻き起こったのが新型コロナウイルスの蔓延でした。不特定多数の医療関係者、患者等と接する病院内は感染リスクが高まります。「治療を中断するしかありませんでした」と既往症がある萌美さんは唇を噛みます。

 その後、今年に入ってワクチンの接種が開始されたのですが、高齢の方、基礎疾患のある方に続き、接種の対象になったのは65歳以下でも感染リスクの高い特定の職業に従事する方(=職域接種)。保険会社に勤める夫はこの対象に含まれており、ようやく順番が回ってきました。6月中旬、勤務先から接種の案内が届いたのです。

夫にワクチンを打たないよう説得

 前述のとおり、取引先等で人と会う職種の夫は「これでひと安心だ」と喜んだのですが、萌美さんは猛反対。「何言っているの?」と前置きした上で、「このワクチンは遺伝子組み換えって聞いたわ。たいして治験をやっていないみたいだし、身体にどんな影響が出るかわからない代物なの。もし、子どもができない身体になったらどうするの!」と自分で仕入れた知識をもとに説得を続けたのです。

 夫は「いやいや、不妊になる可能性はないって聞いたぞ」と返したのですが、「どこで聞いたの?」と尋ねる萌美さんに対して「ネットのニュースだったかな!?」と曖昧な返事しかできず。「ほら言ったじゃない。それじゃ、信じられないわ!」と一蹴。そして「お願いだから、私は打たないから、あなたも打たないで!」と懇願したところ、夫は小さく頷いたそうです。しかし萌美さんはにわかに信じられず、このタイミングで再度、筆者の事務所を訪れました。

 そこで筆者は「会社に電話をしてみては?」と助言したのですが、それから2週間後。萌美さんが夫の職場に電話をし、直属の上司に取り次いでもらい、「接種はいつからですか?」と尋ねたそうです。そうすると上司はうっかり口を滑らせてしまったようで、「うちの課はみんな打ち終わりましたよ」と回答。

 つまり、夫は萌美さんに内緒でワクチンを打っていたのです。夫が接種会場である職場近くの小学校の体育館へこっそり足を運んだことが明らかに。萌美さんは「嘘つき! 子どもはたいして欲しくなかったの!?」と怒鳴ったところ、夫は「今は子どもよりコロナだろ? 優先順位を考えてくれよ」と反論してきたそう。

 そして7月中旬、萌美さんは夫の車に積まれたキャンプ道具一式を発見。「今年は営業しているキャンプ場があったから」とあっけらかんとする夫。我慢に我慢を重ねてきた萌美さんもさすがに堪忍袋の緒が切れ、「あんたの行動はおかしくない? みんなが自粛しているのに! 最近、また感染者は増えているのに。まだコロナは終わっていないのよ」とたしなめたそう。

 しかし、夫は悪びれずに「それはワクチンを打っていない場合の話だろ? 俺は違う。どこに行こうが自由だろ?」と反論。まるで夫は遊びたいからワクチンを打ったと言わんばかり。「ワクチンで症状が出なくても、ウイルスを媒介するかもしれないじゃない! テレビでもワクチンを打った人もマスクしてって言っていたわ!」と諭したのです。彼女がここまで怒るのはなぜでしょうか?