都市化で孤立する人々をつなげる第2の実家

【埼玉県川口市・幸町陽気こども食堂】

 2018年から活動を続ける『幸町陽気こども食堂』。天理教の教会を会場に、現在は月2回の180食分の弁当配布と困窮家庭90世帯への食材配布、学習支援などに取り組む。コロナ禍になってもこども食堂の開催は休止せず、方法を変えながら続けている。

「保健所に電話したりしてどうしたら開催できるのか対策を考えました。感染対策の条件をクリアしたので続けていましたが人は集まらなかった。そこで“配ろう”と去年の3月からお弁当配布に切り替えました」

弁当配布に並ぶ利用者。間隔を保ち密を防ぐ(幸町陽気こども食堂提供)
弁当配布に並ぶ利用者。間隔を保ち密を防ぐ(幸町陽気こども食堂提供)
【写真】埼玉県川口市のこども食堂で提供された、おいしそうなウナギ丼

 そう話すのは池田忠正代表。

 コロナ禍で暗い雰囲気が漂う中、少しでも子どもたちに楽しさを感じてほしいと願う。

 同こども食堂があるJR川口駅周辺は急激に人口が増加。だが、住民同士の交流が希薄なことを池田さんは憂えていた。

「宗教施設なので、気にしている人もいますが当然、勧誘はしません(笑)。ここはみんなが集まれる場所にしたいとの思いで始めました。こども食堂=貧困という考えが地域でも根強いのですが、孤独や自分勝手な振る舞いも心の貧困だということに気づいてほしい」(池田さん、以下同)

 取り残されている人はたくさんいる、という。それはこのコロナ禍で顕著に表れた。

「生活の困窮を実感しました。それに外出できないことは母親も子どももストレス。一緒にお弁当を取りに行く短時間だけでも外に出られた。1食でも作らなくていいのはありがたいとお母さんたちは言ってくれました。お父さんが失業したり、家族の体調がおかしくなったり、自殺を考えるほどに追い詰められたシングルマザーもいました」

初めてウナギを食べた子もいたという(幸町陽気こども食堂提供)
初めてウナギを食べた子もいたという(幸町陽気こども食堂提供)

 訪れる人は弁当や食材を受け取りながら苦しい胸の内を明かしたという。

「助けてくれる人がいることがわかって、やる気が出てきた、1人で苦しまなくてもいいと自殺を思いとどまった人もいました。これまで見えなかった悩みが噴き出した。こども食堂という話す場所があったことは大きいですね」

 コロナ禍であっても運営するスペースがあれば形態が変わっても持続できる手応えも感じていたという

 だが、一緒に食事がとれなくなったことで孤立が進む人がいることも懸念する。

「弁当の調理はうちの妻が担当しますが、ほかのスタッフはご飯食べに来てくれたお母さんたちです。みなさん、恩返しがしたいと手伝いを申し出てくれているんです。一方的に助けるためにやっているだけではなく、助け合い、協力していく場。その姿を子どもたちに見せたい」

 母親が手伝う姿を見ると、子どもたちも自然と机を拭いたり、配膳の手伝いをしたくなるという。

お手伝いを率先する子も。年代を超えて友達になれるという(幸町陽気こども食堂提供)
お手伝いを率先する子も。年代を超えて友達になれるという(幸町陽気こども食堂提供)

 目指すのは家族のような関係。

「いつでも帰ってこられるファミリーみたいなこども食堂にしたいんです。何か行き詰まったときに地域にあるこども食堂に足を運んでもらいたいです。そこがきっと居場所になるはずです」