「障害者の就労支援」にもパンで貢献

 岸本さんがプロデュースしたパン屋さんのひとつ、冒頭に登場した『うん間違いないっ!』は現在、東京都練馬区などに4店舗を展開している。

 オーナーは、障害者の就労支援を行う事業所「ワークスタジオWel」代表・加藤奈穂さんだ。

「軽度障害者の就労支援の一環としてパン工房がやれるんじゃないかと思って、テレビに出ていた岸本さんに連絡を取ったのがきっかけです。おいしいと評判になり、すごい行列ができました。現在でも1店舗平均、平日200〜250本、週末は300本以上の食パンが売れていますね」

 店舗とは別に工房があり、そこで、30人ほどの障害者のみなさんがパン作りやラスク、サンドイッチ作りに従事している。

 オープンして3年、経営していくうえで大変なことを尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「販売するのは当日焼いた分だけ。どのくらい売れるかの生産調整が難しいですね。サンドイッチにする分もあるし。売れ残ったらラスクにしたり、フードロスにならないよう工夫しています。また、練馬区の子ども食堂にもパンを寄付しているんです」

 岸本さんの考え出したユニークな「パン屋さん」は、障害者の就労という社会貢献の形も生み出しているのだ。

岸本さんプロデュースのパン屋さんは、地域で暮らす障害者の就労も支えている
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【写真】今とは真逆! マジメなスーツ姿で仕事をする岸本拓也さん

すべての市町村に「パン屋さん」を

「僕の作る高級食パンは、主食であると同時に、“私たちの町にこのようなパン屋さんがありますよ”と、外からお客さんを呼び込み、手土産にもなるような“ギフト”でもある。だから、おいしいものを基準に、その店のオリジナルを作ろうとしています。小麦粉やハチミツなど地域の食材を徹底的に調べて、商品ごとに使い分けたりもします」

 その対象は高級食パンだけではない。北海道札幌市にオープンさせたカレーパン専門店『カレーパンだ。』をはじめ、牛乳パン、塩パンなどさまざまな種類をそろえた『あの人はナルシスト』など、新たな店作りを展開させている。

高級食パンだけにとどまらず、カレーパン専門店「カレーパンだ。」も話題に
高級食パンだけにとどまらず、カレーパン専門店「カレーパンだ。」も話題に

「例えば人口3万人くらいの町に、まずわが社でパン屋さんを作って軌道に乗せ、それから地元の高齢者に店を譲渡するビジネスも考えています。まだまだ元気で身体も動くという高齢者も多いですからね。高齢化が進んで、若い子が減って働き手がいない問題は切実。だから、問題解決に向けたきっかけを僕は作っていきたいと思っています」

 現在、新潟県柏崎市でも直営店舗のオープンを計画している。

「地方を活性化していこう、地方の街をどれだけ盛り上げられるかというのが僕の課題。パン屋さんを通じて元気になってもらい、さらにパン以外のおもしろさも伝えていければと思っています。

 今年の7月に元・日本代表のサッカー選手やプロレス選手、アーティストのみなさんに集まってもらって釧路でイベントを開いたのですが、今後もそのような活動をしていきたい。ステレオタイプな地方の商業施設やショッピングモールとは別の形を見せていきたいんです」