下野を支えた妻のアドバイス
下野が結婚したのは、もう10年以上も前だという。
「出会ってすぐに友だちになって。そこから、ごく自然にお付き合いするようになったんです。1年か2年かたったところで結婚して。僕は最初から結婚を意識していました。奥さんは飾らない人ですね。いいことも悪いことも、思ったことを正直に僕に言ってくれる。そういうところに惹かれたのかな……」
20代で家庭は持ったが、生活は楽ではなかった。
「声優って、役をもらえるかどうかは全部オーディションで決まるんです。受けたオーディションのうち“2割受かったらいいほう”という世界で。20代後半までは、なかなか受からなくて本当に苦しくて。それなのに、僕よりも下の子たちが出てきたり……。20代は、ずっと焦り続けていましたね」
そんな下野を支えたのは、妻のアドバイスだった。
「僕の出演作品をチェックしてくれて、芝居について“もっとこういう感じのほうがいいんじゃない”とか、けっこうハッキリ(苦笑)。最初のころは奥さんの意見を全然聞かなかったんです。でもやっぱり、外から聞いている人の意見って正しくて。妻の意見を受け入れるようになってから、少しずつオーディションにも受かるようになりましたし、自分自身の芝居も俯瞰して見られるようになって」
子どもも、父親の仕事を理解しているという。
「一緒に見ることは、ほとんどないですけど、声で“パパだ”とわかるみたい。ニヤッとしながら“出てたね”って言ってくれたりします。子どもと妻は守っていくべき存在で、僕に力を与えてくれる存在でもあり、いるのが当たり前でもあって……。本当に大切な存在です」
だが、いったいなぜ公表してこなかったのか?
「奥さんと結婚した当時、僕自身に“見られる存在”だという意識がまったくなかったんです。10数年前と今とで、声優という仕事の幅も注目のされ方も全然違いましたし。もちろん悩んだことはあります。奥さんと“公表しようか”という話になったこともあります。でも、そのたびに“それも何か違うよね”という結論になって。結婚も子どものことも、僕が演じているキャラクターたちには全然関係のない話なので……」
とはいえ、ファンに“本当のことを伝えていない”後ろめたさもあったに違いない。
「結婚して家族がいるということをファンのみなさんにお伝えすることになって、きっと驚かれたと思います。少なからずショックを受けられた方もいらっしゃると思うんです。それは本当に申し訳ないなと思います。ただ、これからも僕自身、声優として頑張っていきたいと思っていますし、何より、僕が演じるキャラクターたちも、もっと頑張っていくと思います。彼らと作品を、これからも応援してもらえたらありがたいです」
善逸は、やっぱり底抜けに優しい男だった。