「われわれは若いときからその話を聞かされていて、助監督たちは『自分がそんなことを言われたらどうしよう』と戦々恐々でした」(竹山さん)
黒澤明が巨人ならば、『仁義なき戦い』監督の深作欣二も巨人である。
勝手に台詞を変えた“ショーケン”
「明日、撮影が朝8時からと予定されていたら、俳優さんたちはわざと深作さんをガンガンに飲ませ、酔い潰れさせて開始時間を遅らせようとするんです。でも深作さんは、8時にはいつも意気揚々としていたらしい。役者さんたちはまだ倒れているのに。
みんな、『深作さんにはかなわない』と思ったみたいですよ。作品を作るとき、役者と制作陣はケンカしたほうがいい。言葉で殴り合ったり、態度で殴り合ったりしないと理解し合えないです」(竹山さん)
竹山さんにも態度で殴り合った役者がいた。ショーケンこと萩原健一だ。自身が脚本を担当した大河ドラマ『利家とまつ』('02年・NHK)に明智光秀役で出演したのが萩原だった。
「ディレクターから『萩原さんが台詞のここを変えたいって言うんだけどダメでしょうか?』って電話がかかってきたんです。でも、一字一句直さないというのが脚本家の矜持だから断りました。で、上がってきた試写を見てみると、僕に言わずに自分勝手に結構直していたんです。
そのとき、『ショーケンに会ったら言ってやろう!』と僕は思ったけど、別に怒っていたわけじゃなく、その芝居がすごくよかったんです。僕が書いた台本は、常識人の光秀が世の安定のために破天荒すぎる信長を討つ芝居だったけど、ショーケンが演じた光秀は声が裏返ったりと、かなり興奮した状態だった。
『なるほど、こういう解釈もあるんだな』という芝居をしていた。役に寄せるだけでなく、その役を活かすために、ときには制作陣を敵に回す気概を持つというのも役者魂なんだと思います」(竹山さん)
三國連太郎や萩原健一といった男たちは、心の肉体を使って芝居する役者の代表格である。
「映画や映像ってただの絵ではなく、ある種の匂いがあるんです。ぶつかり合って、肉体で作らないとそういう匂いって生まれない。最近の映画やドラマは肉感的な面白さが薄れてきている気がします」(竹山さん)
心の肉体、つまり魂がある役者の芝居をこれからも見続けたい─。
谷隼人さん
1946年、鹿児島県生まれ。1961年、子役としてデビュー。その後、日活のニューフェイスを経て、東映に入社。『キイハンター』『風雲!たけし城』などテレビでも活躍。女優・松岡きっことのおしどり夫婦としても有名。
竹山洋さん
1946年、埼玉県生まれ。テレビ局演出部を経て、脚本家となる。主な作品に、連続テレビ小説『京、ふたり』、大河ドラマ『秀吉』『利家とまつ』、映画『四十七人の刺客』ほか多数。1994年に第2回橋田壽賀子賞、2001年に『菜の花の沖』で第51回芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2007年に紫綬褒章、2017年に旭日小綬章受章。
取材・文/寺西ジャジューカ