急増した特殊能力系
事実は小説よりも奇なり
コンプライアンスが叫ばれ、ドラマの表現もずいぶん変わったが、刑事ドラマも然り。だからだろうか、昨今は情報屋がインターネットに通じたハッカー系も少なくない。
「『BORDER』(テレビ朝日系)では、野間口徹と浜野謙太が、天才ハッカー2人組(サイモン&ガーファンクル)として活躍します。そもそも、このドラマは主演の小栗旬が、“死者と対話することができる特殊能力”を持っているドラマ。
ここ10年は、土着的な刑事ドラマが減り、サイバー系や特殊能力系といった刑事ドラマが“あるある”になっている」(吉田さん)
そう指摘するように、真木よう子が絶対聴感能力を使う『ボイス』(日本テレビ系)、堀北真希が被害者や加害者の心の声を聞くことができる『ヒガンバナ~警視庁捜査七課』(日本テレビ系)、クマのぬいぐるみに殉職した刑事の魂が宿る『テディ・ゴー』(フジテレビ系)、阿部寛が異常な嗅覚を駆使して警視庁のコンサルタントとして活躍する『スニッファー 嗅覚捜査官』(NHK)などなど。たしかにトリッキーな設定の刑事ドラマが、“ありがち”になった。
「海外ドラマの『プロファイラー 犯罪心理分析官』あたりから、日本でもプロファイラーものが流行しましたね。鼻につく学者肌や協調性ゼロの変わり者が主人公で、厄介者や鼻つまみが集められる部署という設定が定番。すべてアメリカドラマの二番煎じに見えてしまうのですが」(吉田さん)
ほかの刑事ドラマと差別化を図るあまり、無茶苦茶な設定をさらに摩耗した結果、とんでもないドラマも生まれた。
「『ダーティ・ママ!』(日本テレビ系)は、忘れることができませんね。主演の永作博美が傍若無人なママさん刑事を演じるのですが、武装ベビーカーに息子をのせて現場にかけつける。新人刑事(香里奈)をベビーシッターとしてこき使うなど、コメディーだとわかっていながらも、突拍子もない展開に白目をむきそうになった」(吉田さん)
そういえば、若手刑事だった唐沢寿明が爆発で吹っ飛ばされて昏睡状態になるも、30年後に突然意識を取り戻して復職する『THE LAST COP』(日本テレビ系)なんてドラマもあった。この後に、唐沢寿明が日本版ジャック・バウアーになることを考えると、“もしかして伏線だったの!?”などいろいろと勘ぐってしまう。
念のため、こうした特殊能力を持つ刑事は、本当に存在するのか? 恐る恐る北芝さんに尋ねると……。
「霊感が強い刑事はいます。中には、死体を見るやホトケ(被害者)が犯人を伝えてくるケースもあると聞く。ウソのような本当の話です」
と、まさかの答え。『BORDER』の設定が、リアルな事件現場で行われているなんて!
事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだが、北芝さんは「ドラマで描かれている以上に、警察は生々しい話が多い」と教える。定番であろう「いつも同じチームで動く、相棒(バディ)がいる」という一例を挙げて説明する。
「殺人事件が発生し、犯人が捕まっていない場合、特別捜査本部が事件発生地の警察署内に置かれます。周辺から応援として30~40人の刑事が駆けつけますが、喧々諤々の様相ですよ(笑)。所長や捜査一課長がチームを割り振るものの、刑事長のような人が仕切り始めたりもします」
また、『踊る大捜査線』で描かれていた、署内での権力争いもあるという。
「キャリア組とノンキャリア組の対立もあるし、出身県によっても対立する人もいる。いつも同じ管内で事件が起こるならまだしも、殺人など大きな事件ともなれば同じチームというわけにはいかない。
私個人は、そういう生々しいディテールを描いている刑事ドラマが少ないと思うし、そういった描写に特化した刑事ドラマがあれば、知られざる刑事の人間味も垣間見えて面白いと思いますね」(北芝さん)
まだドラマで使われていない“刑事あるある”が存在しているということ。以前に比べて刑事ドラマもリアルになってきたが、「まさかこんなことが……」と思わせてくれるシーンをもっと見せてほしい!
よしだ・うしお コラムニスト。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆し、『週刊フジテレビ批評』のコメンテーターも務める。著書に『親の介護をしないとダメですか?』などがある。
《取材・文/我妻アヅ子》