MANTANWEB(11月13日)の記事で、制作統括の堀之内礼二郎氏はこう発言している――「多くの方がおっしゃっていることですが、ヒロインがお三方いらっしゃるので」「展開は3倍速で進むというより、3倍濃いと思っていただきながら、見ていただけたら」。
かつて私はこの連載の『大河「いだてん」からそれでも目が離せない理由』(2019年2月)という記事で、大河ドラマ『いだてん』(2019年)の魅力を「スマホをいじりながら見ることができないドラマ」と書いた。テレビの眼前の敵であるスマホから目を奪うような「情報洪水」が『いだてん』の魅力だと断じたのだ。
ご存じのように『いだてん』は、世帯視聴率的には盛り上がらなかったものの、その内容には、今後のメディア界におけるテレビドラマのあり方についての、濃厚な示唆があったと考える。その点、『カムカムエヴリバディ』は明らかに『いだてん』を引き継いでいる。
「100年3ヒロイン戦略」の効果
「革命ポイント」の2つ目は、先の堀之内氏の発言にもあるように、ヒロインが3人いて、トータル100年を1作に詰め込むという「100年3ヒロイン戦略」である。
これは、今回の脚本における最大のポイントだ。現在の上白石萌音を継いで、その娘役の深津絵里と、さらにその娘(つまり上白石の孫)の川栄李奈が、それぞれ昭和30年代の大阪、昭和40年代の京都を舞台としたヒロインとなる。
私が特に注目したいのは川栄李奈だ。また手前味噌で恐縮だが、『川栄李奈が「CM女王」以上の女王になる希望』(2018年6月)という記事で私は、「川栄がドラマの中にあらわれると、画面の中に『普通の風』が吹く感じがする」と彼女を絶賛した。
川栄李奈の持つ、この「普通力」、言葉を開けば「ありふれた日常を再現する力」を生かす場として、朝ドラは絶好の舞台だと思うのだが。
話を戻すと、最近はたった1クール(3カ月)の連ドラでも、その中を「●●編」「▲▲編」と2~3個のパッケージに分割する手法がよく使われる。
「100年3ヒロイン戦略」で全体を3つに区分し、ヒロインと時代と舞台を変えながら、その中を「高速展開」で埋めていくという手法は、鮮度の維持という意味で有効なのではないか。
そして最後の「革命ポイント」は脚本家・藤本有紀の起用である。私は彼女が手掛けた朝ドラ『ちりとてちん』(2007年)のけれん味たっぷりの脚本や、さらに、そのけれん味を極限まで高めて、第34回向田邦子賞に輝いたNHK『ちかえもん』(2016年)に、かなり入れ込んだ。
上品な世界観の中に、ウイット、いや「くすぐり」をたっぷりと振りかけた「藤本有紀ワールド」。現段階ではまだ、その「藤本有紀ワールド」は見えにくいが、ドラマが戦後に入れば、途端に「くすぐり」が炸裂することだろう。期待したい。