退院後も残る脳卒中の後遺症
岡崎さんは救急車内で意識を失ったあと、病院に運び込まれる。血圧が200以上もあり、小脳の血管が破れて流れ出た血の一部が脳幹にまで達していた。岡崎さんの妻の話によると、大きないびきもかいていた。一刻の猶予もない状態だった。岡崎さんは集中治療室に運び込まれ、8時間かけて小脳の出血部を取り除く手術を受ける。
かなり危険な状態ではあったが、岡崎さんは幸運にも一命を取り留めた。
「目覚めたのは倒れた翌日だったと思います。ただ、身体がまったく動かない。自分に何が起きているのかわからず医師に聞いたんですが、そのときは『うーん、筋肉がないんじゃない?』と言われただけだったように思います。自分が小脳出血を患ったときちんと理解できたのは、しばらくたってからでした」
倒れて手術を行ってから1か月たっても、身体は動かない。そのころ、岡崎さんはリハビリを行うためにリハビリテーション病院に転院した。
「あとで聞いて知ったのですが、小脳には力の入れ具合やバランスなどを計算して運動を調節する機能があるそうです。だから小脳の一部を取り除けば、これまで意識せずに当たり前のように行ってきた動作ができなくなるんです」
歩く、自転車に乗る、食事時に箸を使って食べ物をつまむ。そういう当たり前のように思える行動が、岡崎さんは一切できなくなった。
「硬直している筋肉を動かすリハビリと違い、動かし方がわからなくなってしまっていたので、本当につらかったです。当初はなぜ自分が歩けないのか理解できずに悩んでいたんですが、小脳の役割を知ってからは納得しました。歩く練習をさせられるんですが、これがキツい。右足を前に出して、その次は左足を前に出して、時折前方を確認して、といちいち考えながらでないと歩けないんです。そんなばかなことありますか?」
岡崎さんは、こう嘆く。倒れてから5年余りたった今でも、岡崎さんは歩行器なしでは歩けない。当然車の運転もできないので、自ずと外出はできなくなる。そんな状態でも、諦めずにリハビリを続けている。今でも週に2度、1度は介護士に自宅まで来てもらって、もう1度は自宅の前まで車で迎えに来てもらい、リハビリ施設まで通っているという。
「退院したばかりのころは、今の倍はリハビリに通っていました。これでも少なくなったほうです」