岡崎さんが根気強くリハビリを続けるのには理由がある。

「運動しておかないと寝たきりになってしまうという思いはありますが、それだけではありません。脳は一度失うと再生しません。つまり私の小脳はもう二度と再生することはないのですが、脳出血などで失われた脳の機能を、脳の別の部位が肩代わりしてくれることがあると聞きます。もしかしたら、失った小脳の代わりに運動を調節する機能を私の脳のどこかが引き受けてくれるかもしれない。それに期待して、リハビリを続けているのです

 小脳出血の後遺症は、今もなお岡崎さんを苦しめている。利き手だった右手は、思うように動かないままだ。普段は意図したのと近い動きができる身体の左半分を主に使い、生活を送っている。パソコンのキーボードは左手だけで操作し、食事の際も左手でフォークを持つ。

左手で箸を使う練習をすればいいと言われることもあるんですが、左手で箸を持とうとすると震えてどうしてもうまく使えないんです

 運動の調節ができなくなっているのは、手足など身体の見えている部分だけではない。

「舌の筋肉もうまく調節して動かすことができなくて、こんな話し方になってしまうんです」

 文字にするとわかりにくいが冒頭でも述べたように、岡崎さんの話し方はたどたどしく、かなりゆっくりだ。酩酊している人の話し方に似ていると言えば、イメージしやすいかもしれない。これも小脳出血の後遺症だという。さらに、岡崎さんは続ける。

舌の筋肉の動きが悪くなったように、飲み込む力も弱くなるんです。退院したばかりのころは、食べ物を飲み込むということが本当に大変で、ほとんどできませんでした。ほかには、呼吸のことも知ってもらいたいですね。呼吸するときは、横隔膜が肺を動かしているのですが、この横隔膜も筋肉なんです。だから倒れて間もないころは横隔膜の動きも悪くて、呼吸するのがしんどかったですね」

 飲み込む力や横隔膜の動きは今では改善されているそうだが、小脳出血の後遺症は思いもよらないところにまで及ぶということがわかる。

入院することになる前年の2015年には、妻と2人で元気に京都旅行を楽しんだ(岡崎さん提供)
入院することになる前年の2015年には、妻と2人で元気に京都旅行を楽しんだ(岡崎さん提供)
【写真】家の中で歩行器を使って移動する岡崎さん