人間の習慣の変わらなさというのはすごい
羽田さんは本書で、大学生のときからずっとやってみたいと思っていた「釣り堀」へ出かけたり、いつも地味な色の服を着ている自分について知るために似合う色を探す「パーソナルカラー診断」を受けたりする。また、気分転換のためには猫を飼うのがいいのではないかと思い至って「猫レンタル」を体験するなど、なかなか普段できないことに次々チャレンジしていく。
「釣り堀に行ったとき、同行した女性の担当編集とカメラマンがおじさんたちとコミュニケーションを取っていたんですが、それによって『間に女性がいないと、男同士のコミュニケーションをしないかもしれない』という自分の老後が見えてきて、釣り堀からは全然予想もしなかった結論になって(笑)。
パーソナルカラー診断は精神を見られるカウンセリングなので、自分の意外な面がわかりました。せっかく診断を受け、似合う色の服をすすめられたのに、買ったのは濃いグレーのパンツ。それで自分はファッションに無頓着なのではなく、実はめちゃくちゃ頑固だったことがわかりました。
結局今も地味なモノトーンの服を着ている現実は変わらないんですけど、診断を受けたことで再構築して、物事を捉え直しているので、何も自覚していないときと選び方が違ってる感じがありますね。猫は連載時にわりと物議を醸したので……そんなに可愛がってその結論か、という(笑)。これはぜひ読んでいただければと思います」
「実はこのエッセイで初体験をして、今も継続してやっていることってほとんどないんですよ」と笑う羽田さん。
「人間の習慣の変わらなさというのはすごいな、と思いますね。わりと時間を自由に使える職業の自分でもこうなんだから、世間の人が自分の生活を変えるというのはもっと難しいんだろうなと。
でも、大事なのは初体験して生活を変えるということよりも、自分を客観的に見られる機会として、いつもと違うこと、初体験をしてみることなんじゃないかということです。そこで何か気づきがあって、必要性があったら、人はちょっと変わるところってあると思うんです」
本書には決まりきった日常がつまらないなと感じたり、「何かをやってみたい」とずっと思っている人の背中を押してくれる内容が詰まっている。
「ずっと『やってみようかな、どうしようかな』と考えてモヤモヤしていることが、やってみたらなくなりますからね。やってみて楽しかったら続ければいいし、違うなと思ったらやめればいい。
また、やることでまったく別の何かが思い浮かぶこともありますからね。初体験しても変わらないのは、自分が今続けていることのほうが大事だと気づいたからかもしれないんです」