生産者の思いをつなぎ、被災地へ届ける支援
料理研究家という職業柄、おいしくて安全な食べ物をつくる農家など、数多くの志のある生産者と出会ってきた枝元さん。そんな生産者と消費者を結び、距離を近づける取り組みにも励んでいる。料理研究家は生産者と消費者の間にいて、その両者とつながっていると思うからだ。
'11年1月、枝元さんは農業支援団体として一般社団法人『チームむかご』を結成。そのころ、「食べ物のシステムも硬直している」と枝元さんは考えていた。
どうやれば食べ物を大切にしていけるのか。そんな関心があった枝元さんは、「むかご」を商品化する活動をはじめていた。むかごとは、長芋と一緒に発生し、捨てられてしまうものだ。そのむかごを、岩手県のとある村まで拾いに行き、それを商品化する。
「むかごはネットごと洗って塩ゆですると、おいしいの。子どもたちも一緒に拾ってくれて、むかご食べながら、歩くたびにプップッってオナラするの。超かわいいの(笑)」
子どもがジャンクフードを食べるより、むかごを食べてくれるほうがいいじゃん? と枝元さんは話す。
そんなチームむかごを立ち上げて2か月後に起きたのが、東日本大震災と原発事故だった。
スタッフの柳澤香里さんは2011年3月11日、東京の枝元さんの自宅で打ち合わせの最中、激震に見舞われた。
「私は妊娠8か月だったんですが、枝元さんと2人で抱き合いながら揺れがおさまるのを待ちました。その後、しばらくしてから、枝元さんが土鍋でご飯を炊いてくれたんです。白いご飯にのりをぎっしり巻いたおにぎりを作ってくれて。本当においしかったのが忘れられません」
その後、枝元さんは、チームむかごで『にこまるプロジェクト』を立ち上げ、被災地支援の活動を始める。被災地で『にこまるクッキー』を作り、それを被災地以外の人が購入する。さらに購入した人が作った人へメッセージを送るという取り組みだ。売り上げが被災地に届くだけではなく、心もつなぐ、枝元さんらしい温かい支援の形。枝元さんは言う。
「そういうメッセージって、もらったらうれしくて2か月は生きられたりする。避難所とか仮設住宅に“いま、○○人の人がいます”って報道されたりするけれど、そこにいるのは数ではなくて、人なんです。そのひとりひとりの名前になっていることが大事で、メッセージで、(にこまるプロジェクトなら)それが実現できると思って」
思えば、ビッグイシュー販売者の西さんが自衛官として東日本大震災の被災地にいたころ、枝元さんも同じ被災地で活動していたのだ。
さらに枝元さんは、こんなことも話している。
「3・11のあと、ホームレスの概念を考えたの。仮設住宅で暮らす人も家をなくしたんだから、本当はホームレス。そして、困っている。でも、仮設暮らしの被災者をホームレスとは言わない。みんながイメージしているホームレスは、外で寝ている人。ある特定のイメージになっている」
枝元さん自身、ホームレスを他人事とは考えていない。自分もなりうるし、周りの女友達の中にも生活が苦しい人はいる。
また、「ロス」という言葉にも枝元さんは抵抗がある。
「売っているパンも、売れ残ったパンも同じパンなのに、残るとフードロス。“ロスパン”って呼ばれちゃう。残っちゃうのは人の都合じゃん。同じパンじゃん。ロスジェネと呼ばれる人たちも、それと同じだなって。そうやって人の都合で何かの価値が決まるのが、おかしい」
そんなふうに、やさしい語り口で鋭いことを言うのが、枝元さんの魅力でもある。
前出のチームむかごの柳澤さんはこう話す。
「枝元さんは、熱量があるから、人を惹きつけます。周りから見ていて“できるのかな?”と思うことも、やり通してしまう。にこまるプロジェクトは東北でクッキーを作ってもらうんですが、当初、被災地では作る場所がなかったんです。そういう課題をひとつひとつクリアしていっちゃう。枝元さんの作る料理と同じように、アイデアやひらめきがすごい」
のんびりした人なのに、仕事になるとシャキッと機敏になる姿を柳澤さんは見てきた。スイッチの切り替え、集中して料理をするときの手際なども感嘆してしまうと話す。
「すごい人なのに、見返りを求めていません。やりたいことを貫き通すことは大切にしているけれど、枝元さんは“みんなに行き渡ればいいね”と言うんです。夜のパン屋さんも、みんなのお給料が出ればいいよね、売れ残らなければいいよね、という感じ。自分の利益は後回しなんですよね。いつも自分に何ができるのか考えているんです」(柳澤さん)
チームむかごでは、柳澤さんがマフィンを作り、「夜のパン屋さん」に商品を出している。そのマフィンのレシピにも、枝元さんのこだわりがある。
「材料を大量に仕入れるわけでもないから、お金がかかっちゃうけれど、枝元さんの理想とするマフィンがあるんですよね。
大きさもこだわっていて、“小さすぎる。大きなきのこみたいなマフィンを作りたい”って、どんどん大きくなっていったんです(笑)」
実際、田町店のお客さんの中には「このマフィンがおいしいの!」と話しながら買っていった女性もいた。そのこだわりは伝わっている。