毒親が自ら依頼してくるケースも……

 では、子どもに“手放された”と知った親は、一体どんな反応をするのか。

 実は、子どもが姿を現さないことに腹を立てる親もいるなか、意外にもすんなり受け入れる場合が多い。遠藤さんは「親の口からは、“仕方ない”という言葉をよく耳にする」と教えてくれた。

 子どもが親に悩みを抱え、家族に問題が生じていると感じているとき、親自身もそれに気づいているケースが多いのだ。ただし、子どもから“丸投げ”された親が必ずしも不幸とは限らないと語る。

「誰とも連絡がつかず、行政の手を借りて粛々と最期を迎える人もいます。“子どもの代行”という形であっても、誰かのサポートがあり、要望などが聞き入れられる状況は親にとっても安心だと思います」

 代行サービスに依頼するということは“親を捨てる”のではなく、“専門家に頼る”ことだという考え方を、多くの人に知ってもらいたいと遠藤さんは切望する。

「親とまったく接点を持ちたくないという人は、代行サービスにすら相談しません。親の存在を重荷に感じながらも、何かしらの親への呵責があり、その狭間で苦しみながら“家族代行”という形に助けを求めているのです」

子に捨てられると悟る親世代の相談も増えた

 最近は、家族に問題を抱えている60~70代の親側からの相談も増えている。多くは、“子どもは世話をしてくれないだろう”と、すでに諦めを感じている。

「話を聞くと、毒親と呼ばれる親も、自分の親との関係に悩みながら生きてきたことがわかる。苦悩の世代連鎖を起こしているのです」

 これからますます核家族化が進み、介護の問題は深刻に。だからこそ、家族の老後を家族間ですべて背負い込むのではなく、重荷を誰かに預けるという選択肢をつくることが、連鎖を断ち切る第一歩になるのだ。

「誰しもいつか、介護される側になる可能性があります。そのとき子どもに重い負担を負わせたくないならば、2.5人称の立ち位置の人に委ねるのもアリ。それを家族で共有してもらいたいのです」

「肩の荷が下りた」「ラクになった」そう言って親と離れた人たち

 「設立当初は70~80代向けのサービス。そのときは利用者に“ありがとう”という言葉をもらうことが多かったですが、子ども世代からの相談では“肩の荷が下りた”とホッとする姿が印象的です」

 と話す遠藤さん。40~50代の女性は、家庭の負担も大きい世代。もともと反りが合わない親と対峙する重荷から解放された安堵感は大きい。

「音信不通の父親の介護は私の役目?」

 Aさん(50代)は、幼いころに両親が離婚。父親とは数十年も音信不通だったが、ある日突然、父親の介護を引き受けてほしいと行政から連絡がきて衝撃を受けた。付き合いのなかった父親の面倒を自分が見なければならないモヤモヤに加え、金銭面も悩みの種。一縷の望みで代行サービスを探し当て、これらを相談した。すると自分は一切関わることなく、父親の年金の範囲で介護サポートが実現。親のために自分の時間を犠牲にすることなく、解決できた。

「葬儀のとき、自然と母に感謝の言葉が出た」

 母親との関係が悪く、できれば顔も合わせずに逝ってほしいと願っていたBさん(50代)。納骨まですべて家族代行に依頼した。4年間、母のサポートをすべて任せて過ごすなかで、ゆっくりと親との関係を見直す時間を持つことができた。葬儀の日が訪れると、あれほど嫌っていた母の顔に触れ、自然に「ありがとう」の言葉を口にしていた。今、母と距離を置いたことがよかったと振り返っている。

教えてくれた人は……遠藤英樹さん
●終活相談ができるコミュニティカフェのマネージャーを経て、'19年から一般社団法人LMN代表に。『クローズアップ現代+』(NHK総合)など、テレビや雑誌等で介護や看取りをめぐる家族の実情を発信している。

<取材・文/河端直子>