つらい入院期間は1年に及んだ。
「治療で髪の毛が抜け落ちてしまったさくらが、ある日、育毛剤の広告を見て言うんです。『このおじさんたちはもう髪は生えてこないけれど、さくらはまたきれいな髪の毛が生えてくるんだよね?』。そうよ、絶対に生えるよ、と」
その後、カツラを作ったというさくらさんだが、お寿司屋さんで突然「アツい!」とカツラを取ってしまい、周りの大人たちをぎょっとさせたりもしたそうだ。
「本人はどれほど大変だったかと思いますが、明るくふるまう彼女から私たちも逆に元気をもらっていました。退院時にはお世話になった医療従事者の方と離れたくないと泣き……本人は闘病で人の温かさを知り、強さ、たくましさを得たと思います」
小学校の入学式に出られないため、病院内のチャペルで入学式を開いてくれた。「温かい、家族のような病院だった」と今でも親子で振り返る。
幼い姉妹に生まれた絆
退院してからも薬の投与は5年ほど続き、その間も副作用によって心身共に不安定な状態が続いた。気持ちが高ぶり、姉かりんさんを叩いてしまうようなこともあったが、姉妹としての心の結びつきはそれまで以上に、より強くなっていった。
「長女のかりんは中学受験を目指して塾に通っていたのですが、周りについていけず、やめたいと言い出しました。もともと絵に興味がある子で、そちらに進みたいと。そのときさくらから『お姉ちゃんのアートの扉を開いてあげて』と声をかけられてハッと気づきました。そして、自分の娘ながら、なんてカッコいい言葉を言うんだろうと感激。結局、かりんは塾のかわりに絵の教室に、とても楽しそうに通い始めたんです。妹ながらしっかり姉を見てるし、応援している姿が頼もしくて」