他人の人生と比べても、自分の人生は変わらない
日本人は特に、自分と他人を比べて孤独を感じやすい傾向がある。
「あなたはいいわよ。娘さんが近くに住んでいるから」「ご主人が元気なあなたには、ひとりになった私の気持ちはわからないわよ」
など、どうしても、他人と比べて悲観してしまいがちだ。
「他人と比べても、自分の人生は何も変わりません。きちんと“ソロ立ち”していれば、他人と比べなくとも、自分は自分だとゆるぎない生き方ができるはずです」
また、一見にぎやかそうに見える家族でも、そのなかで孤立を感じている人は多いと鎌田先生は指摘する。
「ドラマのような、理想的な家族なんてそうありません。毒親や虐待などさまざまな問題もあり、家族の中で孤立感を抱えている人がいるのも現実なのです。家族や絆は絶対、といった価値観を見直し、自分という存在を中心に考えてみましょう」
都市部では、孤独死も増え続けている。国土交通省の調査では、2018年に東京都区部で孤独死した人は5500人を超え、過去最高であった。
「孤独死は悲惨だ、大問題だといわれます。もちろん、望まない孤独死は問題です。でも、ひとり暮らしで病気になり、最後はやはり自宅で迎えたいと願う高齢者は増えています。そんな人たちにとって、孤独死は自立死だと思うのです」
多くの在宅医療患者を診てきた鎌田先生。肺がん末期のある女性は、最後までひとりで生き抜くことを選んだという。冷蔵庫に、
「もしわたしが倒れていてもあわてて救急車を呼ばないで。十分に生きてきたから満足よ」
という友人たちへのメッセージを貼り付け、毎日を過ごしていた。
「死の間際に、在宅医がそばにいればそれに越したことはありません。でも、もしいなかったとしても、彼女は最後までひとりで生き抜く覚悟がありました。自立した強い精神を持つ人にとって、孤独死は悲劇ではなく尊重すべきもの。立ち会う人のいない死が、すべて悲しい死とは限らないんです」
ひとり暮らしでも緩やかな縁があれば、在宅医や友人、近所の人などがすぐに異変に気づいてくれるはずだ。最期は自宅で、という高齢者の意思を、「かわいそう」「悲惨」と決めつけるのは失礼なことなのかもしれない。
「人は老いていつか死にます。死ぬときに“結構面白く生きたな”と思えれば、そのときに誰がそばにいるかは重要ではないのです。自立した生き方をしていれば、納得した死が迎えられるはず。
そのために必要なのが“ちょうどいい孤独”です。暑苦しい縁にとらわれず、緩やかな縁をつなぎながら、自立の練習をしていきましょう」
コロナ禍のピンチを、自分の生き方を見直すチャンスに変えていきたい。
『60代からはソロで生きる ちょうどいい孤独』
鎌田先生の提唱する“個立有縁”の生き方のヒントが詰まった著書。(かんき出版 1540円)
鎌田實(かまた・みのる)
東京医科歯科大学医学部卒業後、諏訪中央病院へ赴任。チェルノブイリ、イラクへの国際医療支援、全国被災地支援にも力を注ぐ。現在、諏訪中央病院名誉院長、日本チェルノブイリ連帯基金理事長、日本イラクメディカルネット代表、地域包括ケア研究所所長。