浮気とモラハラに耐えてーー 仮面夫婦を続ける理由は“会社は子ども”だったが……
20年前、6歳年上の男性と合コンで知り合って結婚した麻由美さん(仮名・49歳)。有名私立大学を卒業後、外資系企業に勤務していたときに出会い、結婚後は退職して夫の会社の経理を担うようになる。夫の会社は年商が1億円ほどの中小企業だった。
「結婚2年後に子どもが生まれてから、夫の浮気が激しくなったんです」
麻由美さんの妊娠中から浮気の兆候があったが、麻由美さんは見て見ぬふりをしていた。浮気は一時的なもの。子どもの父親なのだから、必ず自分のところに戻ってくると信じていた。だが出産後の子育て中も、夫の会社を必死で支えていた麻由美さんを夫は平気で裏切り、同時に束縛も始まりスマホのGPSで居場所を探された。
「子どもが3歳ぐらいになってから、夕食は必ず家族で食卓を囲むというルールを作ったのは夫でした。夫は夕食時の外出を禁じたんです」
そこで麻由美さんはママ友らに聞いてみた。すると夫と夕食を毎日、ともにするママはほとんどいなくて、夫の帰宅が遅いから夫の分を作らないこともあるという。うらやましくて思わずため息が出そうになった。
「夫はおかずが8品以上ないと不機嫌になるので、夕食の支度も大変。しかも夕食が終わると夫は必ず飲みに出かけ、浮気相手と会っていました」
小さい子どもがいるから、ほかの女性の香水を家に持ち帰らないでと苦言を呈すると、気分を害したのか夫はますます束縛するようになったという。門限を決められ、そんな生活のストレスから眠れなくなり、彼女は睡眠導入剤を服用するようになった。
「精神科医やカウンセラーに相談しました。でもある有名な離婚カウンセラーから“離婚するケースではない”と言われたんです。理由は夫の会社が、私にとってわが子のような存在だからというのです。言われてみると、確かにそのとおりでした」
夫の会社に情が移ってしまったことで離婚に踏み切れなくなったことに気づいたが、さらにショッキングなことが起こる。
「子どもが'19年に海外留学してから、夫の浮気がさらにヒートアップ。複数のパパ活サイトに登録して、若い女性と毎晩のように遊んでいました。しかも夕食時に浮気相手から連絡がくると堂々と電話に出るため、目の前にいる私に内容の一部始終が筒抜けなんです」
あまりにもひどいモラハラに、麻由美さんはストレスで嘔吐を繰り返すようになると、医師から夫との距離を置くようにアドバイスされた。そのため寝室を別々にして、夕食時に女性から電話がかかってくると、食事を中断して自室にこもるようになったという。
「GPSで探せるように設定されたスマホ以外に、自分のスマホも用意しました。夫に対するささやかな抵抗です」
そんな中、コロナ禍のため1年半も会えなかった、留学中の子どもが帰国した。久しぶりの子どもとの生活。そこで麻由美さんは、子どもが独立して家を出てしまったら……、と考え始めたという。
夫と2人きりの生活は、もう耐えられないだろうとはっきりわかったという。女友達に相談すると共感してくれた。
「今年に入ってから、同窓会で再会した女友達と話が弾んで飲食店でワインを飲んでいるうちに、つい門限の夜8時を過ぎてしまったんです。夫に電話をするとかなり不機嫌。その気配を感じた女友達が夫に直接話すと申し出てくれたので、スマホを渡しました」
夫に謝罪している女友達に申し訳ないという気持ちと、一方でなぜ友達と自由に話すことを禁止されるのかと悶々となった。次第に「子どもでもあるまいし」という猛烈な怒りが湧いてきたという。
「友人からスマホを渡され、電話を替わると“すぐに帰ること”と夫から命じられたんです。“はい”と返事をしながら、やっぱりこれはおかしいのではと」
さらにタクシーで麻由美さんを送ってくれた女友達が、インターホン越しに夫に謝罪しているのを見て恥ずかしくなったという。
「もう限界」
会社に注いでいた愛情よりも、夫と離れたい気持ちが上回った瞬間だった。コロナ禍でヨガやセミナーなどのオンラインで、さまざまな人たちと交流を持てたことも離婚を前向きにさせてくれたという。
「今はまだ仮面夫婦のままですが、50歳を機に自立のための準備をしています」
モラハラ夫と別れて、自立すると決めたら未来が明るく見えるのはいつの時代も同じだ。
離婚のチャンスを逃してきたのではなく、機が熟したといえるだろう。