突然の脳梗塞で救急搬送
坊主頭の同い年。篠原さんが「キョーデー」と呼ぶ、今最も親しい人がいる。俳優・舞踏家の麿赤兒さん(79)だ。2人が親しくなったのは10年ほど前のこと。麿さんが主宰する大駱駝艦(だいらくだかん)の公演を、篠原さんが見に行ったことがきっかけだった。
「意味は全然わからんが、一生懸命やってるのはいいな」
篠原さんはいつもまっすぐにものを言う。それ以来、稽古場にも訪れるようになった。
「うちの若いやつが悩みを相談すると、ネガティブなことも一挙にポジティブに転換してしまう。舞台前にコンプレックスで悩んでるやつには“そりゃ財産だなあ”なんて言うし、親が死んだやつにも“いいとき死んだなあ”って背中を叩くようにふっと言葉がかけられる。あれは天性のものだね。相当人を救ってきてるんじゃないかな」
2017年、大駱駝艦の45周年記念公演『超人』『擬人』で、篠原さんの巨大なガラス作品を舞台美術として設置することになった。
「このガラスが割れたら大変だから、付き添いで来て、ついでに舞台にも出てよ」
麿さんの突然の誘いに「踊りは無理だ」と篠原さんは断った。それでも、「歩くのも踊りだ。身体が踊ってる。存在も芸術だぞ」と口説かれ、やってみるかと引き受けた。
役柄はマッドサイエンティスト。白塗りにスーツを着て、杖をついて舞台を歩く。
「カッちゃん(篠原さん)が舞台を歩く背中には、彼が今まで生きる中で背負ってきたことが滲み出ていた。
かっちゃんが“失敗なんかない”と言うのも、僕の“ダメならダメなまま存在させる”というコンセプトに重なります」
その舞台をきっかけに、2人はさらに仲よくなった。70歳を越えてからの友人だ。
「年をとってから『キョーデー』と呼んでもらえると、絆が固い気がするね。2人して幼児に戻ってふざけたり、時には宇宙論のような深い話をしたりもできる。朝起きてSNSでほかの人と楽しそうにしている写真を見ると、嫉妬してしまうくらいです(笑)。
お互い、いい年だ。大事なキョーデーですから、身体も大事にしてもらわないと」
元気に見える篠原さんだが、3年前、77歳のころに脳梗塞を経験している。
「一歩間違えたら死んでたなと思うよ」
新宿で軽く飲みながら仕事の打ち合わせをしているとき、呂律が回らなくなった。
「珍しく酔ったね」と言われたが、酔うほど飲んでいない。おかしいなと思いながら2軒目に移動した。そこでも「呂律が回ってないよ」と言われた。そのまま寝たが、朝起きてもまだうまく話せない。休日だった。
あいていた近くの脳神経外科にタクシーで飛び込むと、「脳梗塞」で救急搬送された。もう少し遅ければ危ないところだった。場所が少しずれていたら、手足も動かせなかったかもしれない。
翌年、経過を検査すると、不整脈の一種である心房細動が見つかった。その血栓が飛んで詰まったのではないかと心臓も手術した。