デビュー当初から明菜が出演していた音楽バラエティー番組『ヤンヤン歌うスタジオ』(テレビ東京系)のプロデューサーだった丸山明慶氏も、当時の明菜を知るひとり。
「『ヤンヤン』は歌だけではなく、コントやドラマなどのコーナーもありました。そこにさまざまな新人アイドルを起用していたのです。明菜もそのひとりでしたが、彼女の新曲は必ずどこよりも先に流すことにしていました」(丸山氏、以下同)
画面には《独占!明菜の新曲》とテロップを流し、放送していた。
「人気番組だった『夜のヒットスタジオ』を作っていたフジテレビは、怒り心頭だったと明菜の事務所からは聞いていましたが、絶対に譲らなかった。番組は毎週火曜日収録で日曜放送だったのですが、1回だけどうしてもスケジュールが合わず、他局に先に流されてしまいそうになったことがあったのです」
そこで急きょ、土曜日に収録を行うことにしたという。
「明菜は“どうしてほかのタレントはいないんですか?”と言うんです。説明すると、彼女はセットの真ん中で“お休みかもしれないのに、私だけのためにありがとうございます”と言って、スタッフひとりひとりに向かって頭を下げたんです。それを見て、本当にいい子だなと……」
松田聖子の曲を披露した明菜
明菜はそこで、ある曲を歌ったという。
「セットチェンジの合間でした。スタジオの真ん中で松田聖子さんの曲を歌ったんです。それが本当にうまくって。うちにはモノマネのコーナーもあったので“明菜、今度番組でも歌ってよ”と言うと“あれは聖子さんの歌だから……。私が聖子さんの歌をステージで歌っちゃいけないと思ってます”と言うんです。なかなかしっかりしたことを言うなと思いましたね」
『ヤンヤン』は、明菜のお気に入りの収録現場だった。コントではハリセンで明菜の頭を叩くことも。丸山氏は、
「明菜みたいな売れっ子がよくやってくれたと思います。何も文句を言わず、逆に率先してやってくれたぐらいです」
時には事務所から、「収録が入っていないから明菜が怒っている」と、丸山氏に電話があったほど。前出の角津氏も、こう証言する。
「番組を見た他局のスタッフからオファーもありましたが、明菜は“そんなのやらない”と言うんです。コミュニケーションの問題だったと思います。『ヤンヤン』では、自分がとても必要とされていると感じていたのでしょう」